真一

高地戦の真一のレビュー・感想・評価

高地戦(2011年製作の映画)
4.2
 戦争とは国家権力の醜いエゴイズムの表れでしかなく、戦争で真っ先に虐殺されるのは最前線に兵士として派遣された庶民だ―。こんな非情な現実を、これでもかと突きつけてくるのが「高地戦」だ。

 舞台は1953年、激動の朝鮮半島。同一民族が南北に分かれて血で血を洗った朝鮮戦争の中でも、とりわけ凄惨な戦闘が繰り広げられたエロック高地の激戦を描いている。このエロック高地では、韓国が奪還すると北朝鮮がすぐさま取り返し、さらに韓国が奪還し返すという争奪戦が繰り広げられた。このためエロック高地にある塹壕では、韓国が占領している間は韓国軍兵士が、北朝鮮が占領している間は北朝鮮軍兵士が機関銃を構えた。塹壕の主人が、戦闘のたびに入れ替わるのだ。この異常な陣取り合戦が、薄暗く狭い塹壕を、入れ替わり立ち替わり訪れる南北兵士による、淡く切ない「秘密交流」の場に変える。

塹壕の中から見つかった酒、たばこ、兵士の家族の写真、そしてお礼の手紙…。韓国軍の兵士も北朝鮮軍の兵士も、攻撃を受けて相手方に高地を明け渡す直前、身の回りの品物を置き土産として塹壕に残していったのだ。それが習慣化するうちに、なんと手紙のやりとりまで行われるようになる。「南にいる家族に伝えてほしい」「北の君らに渡したい」―。置き土産には、死にゆく両軍の兵士たちの思いがにじむ。この映画が単なる戦争アクション映画でなく、反戦平和への願いが込められた作品であることを、このシーンはうかがわせている。

本作は、小さな奇跡ともいえる秘密交流が、国家権力による「戦争の論理」の下で無残に散っていく過程を克明に描写していく。血みどろの殺戮を繰り広げる南北両軍。定員オーバーの避難船に乗り込もうとする自軍兵士を次々と射殺する韓国軍。陸上で戦闘中の北朝鮮部隊と韓国部隊を無差別に爆撃する米空軍。「国家が兵士、庶民の命を虫けらのごとく扱うのが戦争」。本作品は、こうしたメッセージを観る人の胸に刻みつける。

ただ、銃の名手である北の女性兵士と、韓国軍の情報将校である主人公の間に「いい感じ」めいたムードが流れるのは、あまりに不自然だと思った。特に女性兵士の絶命シーン。死ぬ間際に恍惚とした表情を見せるのは、どう考えても変だ。というわけで、5.0の満点は出せなかった。ほかは素晴らしいのに、残念だ。
真一

真一