tak

バッファロー’66のtakのレビュー・感想・評価

バッファロー’66(1998年製作の映画)
4.0
ビンセント・ギャロ演ずる主人公ビリーの小物っぷりが映画冒頭から強烈。刑務所を出た後、戻ってトイレを借りようとするが出所したからダメだと断られてしまう。実家に電話して政府の仕事をしていた、妻がいると大嘘をつく。小銭を貸してくれたレイラを誘拐同然に捕まえて、妻を演じろと声を荒げる。いざ家に着くと吐き気がすると入りたがらない。立場の弱い者に威圧的だが、いざとなると弱気な小心者。関わり合いたくねぇヤツだなぁ…と嫌悪感でいっぱいになる。自宅で配信で見てたら、気分次第ではこのへんで、俺には合わねえと投げ出していたかも。

息子に無関心な両親が登場、そのクズっぷりに呆れる。子供時代の嫌だった記憶が荒い映像でインサートされ、愛されずに育った過去が示される。スクリーンのこっち側の僕らはビリーを気の毒に思い始める。そしてビリーがある人物への復讐を企てていることが明らかになる。

2人が犯罪に手を染める訳でもなく、逃避行する訳でもない。かつてのアメリカンニューシネマのような破滅的な話でもなく、ただバッファローの街をあっち行きこっち行きするだけの話。なのに、映画後半2人から目が離せない。バスルームで一緒にいたいと言うレイラを拒み、不自然な距離でベッドに横になる2人。でも距離は確実に縮んでいく。

実家の場面では、真四角のテーブルの一辺にカメラを据えて他の3人を撮る。一緒にいるのにとても距離を感じ、終いには隣に座る両親は話も聞かない。ベッドを俯瞰で撮る場面はカットが変わる度に2人の姿勢が変わっていく。映像で見せる距離感の巧さ。

音楽の使い方も素晴らしい。音数の少ない劇伴がほとんど。だが突然父親にスポットライトが当たってシナトラを熱唱するのは笑えた。そしてプログレ好きの僕には、たまらない場面が2つ。キングクリムゾンのMoonchildでクリスティーナ・リッチがタップダンスを踊る場面。クライマックス、いかがわしい店で鳴り響くイエスのHeart Of The Sunriseが最高。

そして訪れるエンディングの多幸感。前半で感じた嫌悪感はどこへやら。映画館で観てよかった。リバイバル上映してくれたFilmarksに感謝。女の子は素敵な魔法をもたらしてくれる。それがあのお化け一家のおデコちゃんな小娘だったクリスティーナ・リッチとは。

そしてシアターを出てまっすぐにトイレを目指した。だって、一旦出てしまったら戻ってトイレを使わせてもらえないだろうしww。
tak

tak