クシーくん

蜂女の恐怖/蜂女の実験室/スズメバチ女のクシーくんのレビュー・感想・評価

2.4
ジャニス・スターリン(スーザン・キャボット)は自らを広告モデルにした化粧品販売で辣腕を振う元モデルの女社長。近頃売上が低迷している理由を「モデルをオバハンのアンタ1人にしてから売上ガタ落ちしてんだよ(意訳)」と部下に指摘されてしまい、ヘコんでいた。

そんなジャニスの元に現れたのは養蜂研究所をクビになったマッドドクターのジンロップ博士。スズメバチのローヤルゼリーから若返り薬を発明したという。若返り薬の驚異的な効果を目の当たりにしたジャニスは自らの体で人体実験をするが…というお話。

ストーリーはポスターとタイトルで大体語り終えているのでこれ以上言うことはない。ロジャー・コーマンの初期の作品では比較的脚本がまともで評価されているらしい。その分、無難にまとまっている感はあって大した盛り上がりも面白みもない。
シリアスなシーンのすぐ後に軽快なメロディを挿入する等理解に苦しむ謎の演出あり。ちょっと笑った。

ビジュアルや設定から考えて、どう見ても「蠅男の恐怖」に影響された作品なのは間違いない。ポスターでは顔だけ人間でそれ以外がハチというなかなかの気持ち悪さだが、実際は顔と手足だけ蜂っぽくなっている……うーん、蜂…?蜂には見えないよなあ…複眼の気持ち悪いモンスター、いわゆる典型的なベム(bug-eyed monster)のマスクで、前にどこかの映画で使用したものの流用じゃないか?


キャストは脇役のベテランや三流怪奇映画の常連俳優などが多く出ているようだが、なかで主役のスーザン・キャボットは波乱の生涯を送った人物らしい。衝撃的なのでちょっと備忘録代わりにここに記しておこう。

1927年、ボストンでユダヤ系ロシア人の家庭に生まれたスーザンの人生は早くから多難の連続だった。里子に出され、異なる8つの家庭や養護施設で育った彼女は義務教育を終えるとニューヨークでイラストレーターの傍ら歌手、劇場のスタッフなどを掛け持ちして働いていた。1947年に「死の接吻」で端役を貰いデビュー。拠点をハリウッドに移すも、B級西部映画の役ばかりで不満を覚えたスーザンは契約を解消、NYに戻り舞台の活動を再開する。1959年、ヨルダン国王のフセイン1世・ビン・タラールと結婚を前提に交際するも、彼女がユダヤ人であることからヨルダン国民の反ユダヤ感情に配慮し、破局。とはいうものの、お互いに秘密の関係はその後も続いていたようだ。

晩年のスーザンは鬱病と自殺願望に苦しみ、家はゴミ屋敷状態という悲惨な有様だった。そして1986年、就寝中にバーベルで殴られ死亡。犯人は同居する息子で、小人症と脳下垂体のケアの為ステロイドやホルモン剤を幼い頃から多量に摂取しており、彼も精神的に不安定だったようだ。息子の年齢などからヨルダン国王との間の子ではないかとメディアが野次馬根性で騒いだが、証拠はなく真偽のほどは不明である。

写真に残る彼女の美貌からは想像もつかない悲しい話だ。くだらないホラー映画のあとで妙にしんみりしてしまった。
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