誤宗黒鳥

ジェシー・ジェームズの暗殺の誤宗黒鳥のネタバレレビュー・内容・結末

4.8

このレビューはネタバレを含みます

「The Ballad of Jessie James」(North Country Gentlemen)という曲を最近聴いて元ネタが気になったので視聴。
南北戦争の生き残りで各地で強盗を働いた伝説的なアウトローが、その伝説に憧れてジェームズ強盗団最後の強盗の前に一団に加わった若者、ロバート・フォードに殺されるまでの話。つまりこれはジェシー・ジェームズの「伝説」の後日談と、彼を殺した若者を中心に扱った作品というわけである。
その後は最後の強盗の後に各地を転々として逃れる強盗団の残党と、仲間が自分を裏切っているのではないかと疑って付け回すジェシー・ジェームズとのやり取りが地平線まで見渡せるアメリカ中西部の美しく茫漠とした景色を背景に展開していく。
牧場主になった兄とは違って足を洗えるわけでもなく当局から懸賞金をかけられて追跡されて不安に苛まれていくジェシー。かつての仲間も彼に憧れていたボブもだんだん彼を恐れてうざがって嫌っていく。ジェシーが訪れる人々の気まずい態度は、もはや彼が「伝説」ではない事を語る。
そして1882年4月3日、新たに強盗を打診され(または騙されて始末されそうになっていたか)一緒に家で過ごしていたフォード兄弟とジェシーの猜疑心は互いに頂点に達する。しかしジェシーは半ば諦めたようにあれだけ警戒していたのにガンベルトを外してわざとらしく絵を掛け直そうとする…。伝説のアウトローも最期は不安に耐えきれずに自ら死を望んだかのようだった。

で、映画はここから彼を殺したフォード兄弟の後日談へと展開していく。「伝説」を殺した彼らは自らの体験談を演劇にしてしばらくは人気を得たようだがその態度が世間から非難と嘲笑の的にされていく。兄のチャーリーは罪悪感に苛まれ、ジェシーに憑依され、彼の後を追うかのように自殺。ロバートも遠くに逃れて酒場を開いて後悔の日々を送っていたところ、かつての自分のようにその名に引き寄せられた男に殺される。ただし暗殺者が求めるのは名誉と復讐だけだったのだが。「伝説」を殺したにも関わらず、「臆病者」でしかないロバートの死は称賛されることなく埋もれていくのだった…。

このように、ジェシー・ジェームズは晩年の惨めさを「臆病者」ロバートの裏切りによって覆い隠されて、却ってその裏切りによって神格化されたという「伝説」の形成過程を映画は語っておりました。

この映画を観るきっかけになった「The Ballad of Jessie James」もまた伝説的なジェシー・ジェームズ像を描いたに過ぎなかった。しかし事実とそれを題材にした表現はいつだって乖離しているものであり、最も残るものは劇的で後世から見てもどこか普遍性があり、何より劇的で分かりやすい物語なのだろうと実感。しかし本作はジェシーを美化することなく、その「伝説」の形成過程を伝記的に見せてくれたところに惹かれた。
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