あかつか

故郷のあかつかのレビュー・感想・評価

故郷(1972年製作の映画)
5.0
瀬戸内で石の運搬を生業にしている夫婦。真面目で働き者だけど高度成長期の波に飲み込まれ…。民子三部作の前作『家族』同様、時代に取り残される井川比佐志と倍賞千恵子夫妻。

ほんのちょっと昔まで、農民の子は農民に、商人の子は商人に、聖職者の子は聖職者になるのが当たり前だったはず。今日、親と同じ場所で生まれた人が何%いるんだろう。祖父母と同じ仕事をしてる人が何%いるんだろう。私だって先祖代々新潟で農家やってたDNAのはずなのに、なんで東京でサラリーマンやってんだろう。絶対向いてないやん。生業と仕事の違いなんかなぁ。

最後の海に出た井川比佐志のセリフ。「なんでわしはお前と、この石船の仕事を続けてやれんのかいの」。ひさびさにこんな胸を締め付けられるようなセリフに出会えた。これだけで松竹チャンネル登録してよかったと思った。

人の移動が激しくなれば、地域なんて真っ先になくなる。人々が拠り所にしていたものがなくなれば、綻びが生まれる。近代化とはなんだったんだろう。

松下さんこと渥美清だけ東京育ちで標準語。つまり流れ者らしい。この設定だけで、それまでの彼の苦労が垣間見える。

しかしこの、船に乗った石を豪快に海に落とすシーンは何度でも見れる。『ピタゴラスイッチ』の「そこで橋は考えた」思い出した。「♪川〜流れているよ、川〜」ってやつ。


私も絶滅危惧種みたいな仕事してるから、他人事には思えん。おまけに今の時代はこの映画みたいな高度成長期じゃねーし。
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