垂直落下式サミング

三大怪獣 地球最大の決戦の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

三大怪獣 地球最大の決戦(1964年製作の映画)
4.0
「空からの力」
往年の名やられ役キングギドラが爆誕した作品だが、初出となる本作では、ちゃんとしたワルの怖さがある。
これまで主役をはってきた三匹の怪獣が、力をあわせてようやく渡り合える。宇宙からやって来た強大な敵として、ゴジラたちよりも明らかに格上の存在として登場。
地球の怪獣たちは既存の生き物の巨大化版なのに、キングギドラの三つ首で金色でドラゴンな見た目は完全に架空の生き物。地球の生態系ひいては神が創りたもうた理にあてはめることのできない異質の存在であることが一見してわかる。まさに、宇宙最強だって!
えっ?これが鳴き声?って感じのコココココキキキキという電子音のような声や、光線を放つときに生じるキュルルルルルルルルルルルという音など、本当に宇宙怪獣とはこういうものではないかと思わせるような存在感。
この頃のゴジラの熱線は、まだ必殺技ってほどじゃなく煙のような熱放射だった。なのに、キングギドラは、やたらめったらビームで蹂躙してくる!しかも三つ首三倍で殺傷能力高め!
戦後高度経済成長の象徴である東京タワー、この極東の島国で数百年前から人の営みが紡がれてきたことの証である松本城、どれもこれもお構いなしに景気よく吹き飛ばす。それに飽きたらず、神社仏閣さえも容赦なく破壊してくる。そこがいい。
戦後を生きた設計士や職人たちの想いも、文化財として保護されるべき歴史も、古来から心に根付いている八百万の神々への信仰心すら、嘲笑うかのように。
ゴジラ・ラドン・モスラにはあった武士の情けが欠片もないスペースインベーダー。彼は、完全に地球の生態系や倫理観の外側からきた生物なのだ。
このキングギドラを相手取って地球軍が戦う部分だけでもワクワクするけれど、本筋もなかなかのもの。予知能力を持つ外国の王女様やインファント島の小美人をめぐる国際色の強いSF刑事ドラマになっていて、わりかし筋書きのしっかりとした物語となっていた。
キャストも、東宝映画によく出てくるようなメンツで固めてある。ボンドガールの若林映子が予知能力を持った女性をエキゾチックな見た目で演じていて、モスラから続投の小美人はザ・ピーナッツのふたり、ウルトラマン出演前の黒部進も脇役で登場し、精神科医の役で志村喬も出ている。
いちばんの名シーンは、ケンカしてるゴジラとラドンのあいだにモスラが割って入って仲直りさせるところ。モスラがラドンの顔に糸をぺってやってうえええってなってるのを、ゴジラが腕をわしわしやって笑う。ここで、ピーナッツが怪獣語を通訳してくれる。なんでそんなことしないといけないんだ。人間はおれたちをいじめるじゃないかー!うぎゃー!昭和黄金世代モンスターズのかわいいさがはじける。キングコングの流れを踏んでいるからか、全体的に語りは陽性。
てか、お前らいじめられてるとか、そういうこと思ってたのか。VSシリーズのマッチョなゴジラをみて育ったから、人間のことなんて意に介していないと思ってた。
ところでキングギドラさん、こんだけ強いんだスゴいんだってみせられても、どこまでいってもイメージはやられ役だなあ。後のシリーズになってくると、出てきてはやられるのを繰り返しすぎて、もはや負けることがアイデンティティまである。
『怪獣総進撃』だとオールスターにフルボッコにされるし、『ゴジラVSキングギドラ』だと二回死ぬし、『大怪獣総攻撃』だと三回死ぬ。公開処刑されるためにいる怪獣だ。
実は不遇だったコイツに、ヒールとしての華々しい見せ場をいくつも用意してくれたハリウッド版は、やっぱり素晴らしかったと思う。