[蝿は蝿取り紙をそれと知らない] 70点
アンジェイ・ワイダ作品は岩波ホールのおかげもあって無条件に上映されているというイメージがあったんだが、ワイダの作品数が多いこともあってそんなこともないらしく、しかもマーフィの法則に従って入手困難な作品ほどカンヌ映画祭に出品されている。本作品は盟友ズビグニエフ・チブルスキの死を受けて製作した『すべて売り物』と同年に発表された、ワイダ渾身のサイコ系コメディである。ただ、誰に視点を置くかによってその感覚は変わってくる。
主人公ヴォデクは妻子、義理の両親と共に小さなアパートに住んでいる。小言ばかりの妻、一日中テレビの前に陣取って蝿のことばかり気にする義父、図書館の退屈な仕事に囲まれて今にも死にそうなヴォデクは、ある日イレーナという女子大生と出会う。この気弱な言語学者は若くて可愛いイレーナにゾッコンで、俗に言う"不倫"を楽しみたいのだが、イレーナは好みの男を囲って自分好みの男に変えることを楽しむために近寄ってきたのだ。賢いと思って誘惑に乗っかったつもりが、それはその習性を利用した蝿取り紙だったのだ。
というのはワイダが明白に意識したであろうヴォデクの視点である。彼は若い女をも思い通り支配できず、"あれれ~おかしいぞ~"と首を捻り始めた頃には自分が支配されてしまい、そこから逃れようと躍起になる。簡単にまとめると、不倫して甘い汁を吸おうとしたら向こうの方が数段上手でしたという話で、私は終始"ヤッチマイナー"と思っていた。
全体的にもっさりとした映画なのだが、狂気的なラストシーンで文字通り蝿取り紙に絡め取られたヴォデクには爆笑できる。一本締め映画としては中々優秀。