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55年夫妻のもたのネタバレレビュー・内容・結末

55年夫妻(1955年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

グル・ダットのやっとやっとやっと見れた作品だけど、それ以上にいろいろと面白かった。内容としては、インドの一夫多妻制の廃止と離婚法成立を巡る55年のリアルタイムな風刺映画で、劇中では自由恋愛や女性解放的議論が生まれること自体、欧州文化流入によるインドのモダナイズの流れのひとつと言及されている(ただ、実際には一夫多妻の文化は現在でも一部地域では存続されているし、ヒンドゥー教徒の離婚は慣習的に難しいとされているらしい)。で、この作品で問題になっている「離婚がOKで女性が自由になったら恋愛しなくなるんじゃ?」みたいなのって驚くほど既視感のあるやつで、形を変えて歴史の中で何度も立ち現れてきた議論なんだなと感慨深く思った。そういった話だからぱっと見では、ダットは恋愛に関して保守的なんだなとか、後に自らの不倫をきっかけとする自死を遂げているというのがまた悲劇的だなとか思うのだけど、よく目をこすりながら見てると、フェミニストの叔母さんとかかなり魅力的に描いてるなとか、あくまでロマンティック・コメディの作家として恋愛に対する意思表示をしただけなんじゃないかとか見えてきて、色々考えさせられた。そしてこれ絶対、サタジット・レイの一連の女性映画は引き合いに出さずにはいられないよなと思った。『ビッグ・シティ』とかと二本立てしたい。それにしても、遺産相続の条件に結婚が提示されるというもろキートンな設定。ただし、不特定多数の女性vsキートンという構図に対して、こっちはハリウッド式のラブコメだから用意された相手との一対一という点で展開が違う。しかも偽装結婚もの。ダットの裏でジョニー・ウォーカーがこっそり恋愛を成就させているのが面白かった。『表か裏か』と似たような出会い方(『表か裏か』は脚に躓いて転ぶのが恋愛の暗示になっており、今作はヒロインが投げた靴がダットの身体に当たることで二人が出会うきっかけになっている)とかも興味深かった。しかし『表か裏か』のような見事な作品ではなかったかなという印象。ちょっと野暮ったい。
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