モリアーチー

恐怖の精神病院のモリアーチーのレビュー・感想・評価

恐怖の精神病院(1946年製作の映画)
3.5
カーロフがヴァル・リュートンと組んで作られたRKO製ホラー映画の最後の一本です。『吸血鬼ボボラカ』『死体を売る男』に続いてのコスチュームプレイです。

18世紀英国の国民画家ウィリアム・ホガースの『放蕩一代記』に示唆を得て作られたとのことで、タイトルクレジットにもホガースの名が載っています。『放蕩一代記』は8枚組の連作で放蕩者の転落を描きますが、7枚目が牢獄で、8枚目が精神病院です。当時は精神病院が牢獄以下のどん底の扱いだったことがわかります。

脚本には監督のマーク・ロブソンと並んでカルロス・キースの筆名を使ったリュートン自身が参加しています。実話ではありませんが、実在した王立ベスレム病院を舞台にしており、ベスレム病院の医師だったジョン・モンローをモデルにした悪辣な院長ジョージ・シムズ役をカーロフが演じています。原題の”BEDRAM”はベスレム病院の通称です。

お話は18世紀中頃のロンドン、政治家のモーティマー卿のコンパニオンのネル・ボーエンが、卿に取り入ろうとするベスラム病院の院長シムズと対立し、悪名高い病院の治療環境改善を主張するようになります。モーティマー卿はシムズを利用して政敵をベスラムに収容しています。

歯に衣着せぬネルを疎ましく思うようになった卿はシムズの企みに乗ってネルをベスラム病院へ入院させます。ネルは患者達を恐れ怖がり、友人のクエーカー教徒から刃物を差し入れてもらいます。

この映画で面白いのが、カーロフの名演を超えるアンナ・リー演じるネル・ボーエンの心理描写演技です。当初ベスラムに収容された患者達を同情し、環境改善を声高に叫んでいたネルが、自らが患者にされて収容された途端に患者達が怖い、汚いと本音を漏らします。

それでも、ネルは病院に慣れて落ち着いてくると患者としての自らの境遇を実感して改めてシムズに改善を要求するようになります。このあたり単なる偽善者ではないネルの強さと正直さを観客に印象付けるのに成功しています。

カーロフは悪辣なシムズを演じて名優の仲間入りをしたと思います。問い詰められると独善的な理由を述べて病院の患者達の虐待を正当化します。ネルとシムズは果たしてどんな運命を辿るのか、ラスト近くのスリルには目が離せません。
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