にく

殺人豚のにくのレビュー・感想・評価

殺人豚(1972年製作の映画)
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『殺人豚』。精神病院を逃げ出したうら若きリンが辿り着いた先は田舎のダイナーだった。店に住込みで雇われた彼女は、ある日、自分を誘惑した客を殺してしまう。するとなぜか店のマスターが、死体を豚に食わせ証拠を隠滅してくれる。実はこの男、墓から死体を掘り出しては餌として豚に与えていたのだ。
頻繁に挿入される不自然な反復ショットは脚本の粗を隠すためで、妙に暗い照明は稚拙な特殊効果をそれらしく見せる工夫だと、そこは善意に解釈しておこう。実際、これは、トロマ製だからといって見限ってしまうには余りにも惜しい作品だ。「豚」の寓喩のあり方を実に端的に示してくれているからである。
リンには実父から性的虐待を受けた過去がある(精神病院に入れられたのも、その父を殺めてしまったが故だ)。男性的権威の象徴としての父は、しばしば娘を「肉」として(メタフォリカルに)貪り食う。だからこそ彼女は、男たちの象徴機能を転覆させる為に、己同様、肉としか看做されていない憐れな豚に彼らを食わせるのだ。
よって、リンを手助けするダイナーの主人が終盤、保護者然として振舞い始めた途端に背中を刺され、豚の餌食となるのも当然のことだ。勿論、ここでR・スコットの『ハンニバル』を思い出してもいい。かの作品は、豪奢ではあるには違いないけれども、しかし陳腐な、本作のリメイクであるといえるわけだ。
なんて御託はおいといて、この映画に関して一番面白いのは平山デルモンテ夢明氏の解説。「これは農家のジジイが「人を殺して豚に食わせりゃ完全犯罪だ」などという発想から人をブンブン、ブチ殺し、それを家畜に食わせていたら、自分も豚の穴に落ちて死んじゃったというもの」って、そんないい加減な。
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