明石です

ル・アーヴルの靴みがきの明石ですのレビュー・感想・評価

ル・アーヴルの靴みがき(2011年製作の映画)
4.5
密輸品にまぎれ込んでフランスへ密入国し警察に追われることになった黒人少年を匿い四苦八苦する靴磨きの男。

『ラ·ヴィ·ド·ボエーム(92)』で売れない物書きを演じたアンドレ·ウィルムが、20年越しに、おそらくは同じ(役名は同じ)役で再登場。「若い頃は小説なんかを書いてて、仲間内では受けてた」と思い出を語り、そのあたりのやや淋しい過去がほのめかされる。物書きだけでは食べていけなかったのか、夢破れ、高級な靴屋の前でまるで乞食のように靴磨きをする。それでも芸術家を志していた頃の男気は失われていず、警察に追われながら親を探して旅をする少年を一も二もなく受け入れる。

アキ·カウリスマキの映画は、悲劇が悲劇を呼び、のっぴきならない状況に陥ったところでさらにどん底へ落ちていくプロットが多い(多かった)ように思う。ファム·ファタルに破滅させられる『街のあかり』まではいかずとも、『過去のない男』しかり『浮き雲』しかり、それこそ『ラ·ヴィ·ド·ボエーム』しかり、どん底のさらに底で一縷の希望をやっと掴んだところで閉幕、といった感じのストーリー。希望がないわけではないけど、一般的な「幸福」の概念からするとあまりに報われないよなといった程度の希望。本作以降、アキ監督は、善行を報われる人間の話を多く描くようになるわけで、その意味では転換点にあたるのかもしれない。

私個人はというと、けっこうどちらも好きで、どんなシナリオだろうがカウリスマキの映画なら好んで観るぜというのが本音。ただ本作に限っていえば、幸せの訪れがやや唐突すぎるかなという気はする笑。運命の帳尻合わせが少しばかり映画的に過ぎる感じ。もちろん、物語中盤から、ラストの悲劇の匂いはぷんぷんしていたわけで、そのまま突き進むと、観客の読み通りになってしまうとかそのへんの事情を考慮して、やや強引にでもエンディングを(観客の期待を裏切るために)変えたのかもしれないけど。

ル·アーヴルという街が美しいのか。アキカウリスマキの映画が美しいのか。青を基調にした風景に、黄色や赤(やはり原色)の衣装を身につけた登場人物が闊歩する姿がとても映える。青と黄、青と茶の組み合わせはやっぱり綺麗よ。最近は個人的にモノクロのカウリマスキ作品を多く観ていたせいか、なんだか長いトンネルを抜けたあとに海が見えたみたいに唐突に景色が開けた気分笑。やっぱこうでなければ、、私的にはカウリスマキ史上No1美しい作品かもしれない。
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