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ル・アーヴルの靴みがきのmknのネタバレレビュー・内容・結末

ル・アーヴルの靴みがき(2011年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

ジム・ジャームッシュ作品からアキ・カウリスマキの影響を感じたこと、また、たまに訪れるバーのマスターが大ファンだと紹介していた事も思い出し、一番「マトモ」そうな作品として『ル・アーヴルの靴磨き』をピックアップした。
(「マトモ」でない印象の由来は「シュールさ」によるものであるが、後述するようにこれは「大いなる誤解」である可能性が高い。)

以前、『過去のない男』、『希望のかなた』は観賞した事があったが、一貫性を感じる表現方法がいくつかあった。
定点的であったり、人物を真正面から捉えるカメラワークの多用や、スムーズではないブツ切りで断片的な展開などである。
とりわけ特に取り上げたい特徴が、キャストのリアクションの希薄さである。
これに関連して、私は彼の作品に対して「イベントの不在性」を捉えていたが、これは勘違いで、改めて注意深く観賞してみると、確かにイベントは起こっている。
なぜ、何も起こっていないようにこれまで錯覚していたかというと、キャストはイベントに対して反応を起こさない事があるからだと気づいた。
これは、私がキャストに自己投影している(と仮定するならば…)まさにその時に、イベントに対して演者に無反応を決め込まれると、私自身にも何も起こっていないと錯覚せざるをえないからではないか、と分析した。
私は彼の作品を観賞すると、シュールさを覚えるのだが、このシュールさも、私とキャストに対するイベントへの感応度のギャップから生じているのだという仮説が生まれた。今後、もう少し彼の作品を追って検証していきたい。

また、カフカの短編集によって暗喩されるように、この作品のテーマの一つは「不条理による弱者の救済」であろう。
私自身は、現実世界で不条理=不正が働くと怒りを感じてしまう性分なのだが、不条理とは必ずしもネガティブな結果に繋がるものではないのだと、諭されたような気持ちになった。
そう、不条理の前では無垢であるべきなのかもしれない。
無垢な者に対して、門は開かれているのだから。

ところで、当監督の作品に登場しがちな、中年男性によるバンド演奏は、何かを意味しているのだろうか。
あまりに滑稽で笑わずにはいられない。
短調なストーリー展開の中で良いスパイスになっていて、個人的にかなり好きな演出ではある。
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