日本ではあまり知られていない、バーバラ・スティール主演の名作イタリアン・ゴシックホラー。監督はエドガー・Ｇ・ウルマーの元で助監督を務めたマリオ・カイアーノ。音楽はエンニオ・モリコーネ。原題「Amanti D'oltre Tomb（墓場の恋人たち）」。

スコットランドの古城。アロースミス博士（ポール・ミューラー）の妻で貴族出身のミュリエル（バーバラ・スティール）は、夫の目を盗んで下男デビッドと情事を重ねていた。しかし浮気に気付いた博士は老家政婦ソランジュに手伝わせて二人を拘束し、激しい拷問の末に電気ショックで殺害する。時が経ち、博士はミュリエルの莫大な財産を我が物にするため遺産相続人となったミュリエルの妹ジェニー（バーバラ・スティール２役）と再婚。すると彼女は次第に姉ミュリエルの悪夢と幻覚を見始める。。。

かなり好みのゴシックホラーだった。まずはセット美術が低予算とは思えない豪華さでどのフルショットも決まっている。そして肖像画、拷問室、地下の墓などゴシック要素をフルコースで揃え、さらに家政婦の若返り設定で医療ホラーまで取り入れているので最後まで飽きる事がない。バーバラ・スティールの髪色を変えた２役も効果的で、監督のゴシック＆バーバラ愛が伝わってきた。

カイアーノ監督は「ホラーをこよなく愛している」と公言しており、バーバラの代表作「血ぬられた墓標」（1960）など名作イタリアン・ゴシックホラー群に加えて、「顔のない眼」（1959）、「血とバラ」（1960）などフランス耽美ホラーからも引用して一本にまとめ上げた成果は手腕以上に熱意の賜物だろう。ただしゴシックホラーを手掛けたのは本作だけ。やりきった感があったのかもしれない。

劇伴は最初期のエンニオ・モリコーネによるもので彼が手掛けたイタリアン・ゴシックホラー作品は本作のみ。後のジャッロ劇伴に比べると、バロック風のオープニングなどは正統的な印象だが、主題曲「墓場の恋人たち」は同時代ホラーとは一味違うメロディアスなもので映画にモリコーネならではの感傷をもたらしている。

ひとつ、アロースミス博士が心臓のホルマリン漬けを何故保存していたのかは謎で、整合性を求める向きにとっては大きなツッコミどころだろう。個人的には、博士を演じているのがジェス・フランコ監督の常連ポール・ミューラーなので、ユーロトラッシュの文法として消化できた。

バーバラ主演のゴシックホラーはこれにて全作コンプ。米国では「Nightmare Castle」の題名で高い人気を誇る本作。「血ぬられた墓標」「幽霊屋敷の蛇淫」に次ぐお気に入りの一本となった。

※バーバラ・スティール主演のイタリアン・ゴシックホラー全９本
血ぬられた墓標（1960）
ヒッチコック博士の恐ろしい秘密（1962）
The Ghost（1963）
幽霊屋敷の蛇淫（1964）
亡霊の復讐（1965）
The Long Hair of Death（1965）
Terror Creatures from the Grave（1965）
シービースト（1966）
An Angel for Satan(1966)

※本作をロケ撮影した城は、「処女の生血」（1973)の撮影場所としても知られるローマ近郊のヴィラ・パリージ邸（17世紀初頭建築）。

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• #\1965
• #＠イタリア

イタリアン・ホラーの女王、バーバラ・スティールの魅力が炸裂する映画。
ひとり二役＋「ひと役の黄泉ヴァージョン」と3パターンに大別可能で、特に冷笑的なミュリエルがジェニーへ憑依する場面が、エキセントリックな笑いを運ぶ。
また若くふっくらとしているのに、老醜メイクに身をやつすヘルガ・リーネと、彼女が着用するバッスルのシルエットがユニークなメイド服（？）も美しい。

モノクロでゴシックな雰囲気かと思いきや、マッド・サイエンティストを配し、生々しいゴア描写の片鱗を付け加えていた。