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もののけ姫の夜のレビュー・感想・評価

もののけ姫(1997年製作の映画)
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まぎれもなく宮崎駿の作品だが、ジブリ映画と言うのが憚られるくらい異色だ。第一に子どもの存在が徹底的に排除されている。アシタカの一族も乙事主の一族も種の存亡が掛かっていて、その退路のなさが物語の底にある。それはこの作品の脚本が本来『アシタカせっ記』という伝説として書かれたことにも関わるのだが……このタイトルだったらアシタカが英雄として(その性的な能力も含めて)瑕疵なく描かれていることも当然なわけで、女性視聴者から嫌われることもなかったのかもしれないが、商業的には『もののけ姫』で正解だっただろうし、うーんという心境。

見ることと眼の隠喩が気になった。最初に対峙するタタリガミは眼を射られるし、倒木の隙間からサンを見る場面と対照されているシシガミを見る場面では、しかし、アシタカはシシガミを見ることができない。ジコ坊の手下がシシガミを見ると眼が潰れると言う場面がある。乙事主は登場シーンからして眼が見えないことが強調されるし、業病を患う人々はタタリガミ同様に眼以外見えない姿になっている(長に至っては眼も見えない)。そしてアシタカの目的は「曇りなき眼で見定める」ことだ。アシタカがたびたび幻視するのも気になる。

にしてもサンが「美しい」と言われてたじろいだり、玉の小刀を受け取って「綺麗」と呟いたりするところの「女の子っぽさ」は、ギャップ萌えというよりも少し戸惑ってしまう。この作品の長所のひとつは各種族がそれぞれ特有の文化=論理を持っていて、言葉は通じるけど「話が通じない」ところだと思うからこそ。最初の邂逅で口の周りに血痕を付けながら血を吐きだすなんて、ぶっ飛んだボーイミーツガールだなぁと思う一方で、サンは意外とキャラ立ちしていない宮崎駿ヒロインでは。

そのほか公害の視点、たたら場の社会構造とフェミニズムの問題系が気になった。
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