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カフェ・ソサエティの夜のレビュー・感想・評価

カフェ・ソサエティ(2016年製作の映画)
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再見。小説をそのまま映画に移し替えたらこうなるだろうというような小説的な作品で、内的な筋としてはボビー青年が"Life is a comedy written by a sadistic comedy writer"という人生観=認識を獲得するまでを描いたビルドゥングスロマンとまとめられると思う。

ウディ・アレンの映画がどうしても内包してしまうチープさをうまいこと活かせる脚本に感心した。ウィットの効いた会話とテンポの良さに「映画ってふらっと入って気軽に見て出ていけるものだろう?」という彼の映画に向き合う態度を感じるし、それに合わせて技巧を洗練していったことがよく伝わってくる。名作と言えるほどの重厚さはないが、気がつくと何度も最後まで観せられてしまう。この作品を観るたびに「円熟」という言葉を思いだす。

個人的に好きなのはやはり最後のシーンだ。カメラが舞台上の青い光と向き合って立つボビーの後ろに回り込む場面で、「背中に語らせる」と言えば陳腐だが、それがスタイルのいい美形俳優の背中ではなく、首の縮こまった、いくぶん情けなくすら見える小柄なジェシー・アイゼンバーグの背中であるところに、この作品のリアルと誠実さが感じられて好きなのだと思う。これが自分という役者に割り当てられた結末、人生だったのだなということを感じさせる背中だ。

ところでウディ・アレンも御年87歳ということで、もう長くはないだろう。きっと今後、彼がこの世にいなくなったのをいいことに、またあれこれ放言をする人が出てくるだろう。その中には擁護しきれない真実もあるだろうが、それでも私は彼の作品が好きな一人の観客として、「でも映画は良かったよ」と言うつもりだ。
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