みやび

もののけ姫のみやびのレビュー・感想・評価

もののけ姫(1997年製作の映画)
4.8
むかし、この国は深い森におおわれ、そこには太古からの神々がすんでいた。

本作は曖昧で流動的な室町時代を舞台としている。
しかし混乱の中で描かれる人物像には曖昧さなどはない。
自由を獲得するために強い意志を持って生きる人々や、その裏で生まれた愛と憎しみ。
物語が進むにつれて段々と生き死にの輪郭がはっきりと見えてくる。
人々はただ生まれ、働き、愛し、憎み、死んでいく。
豊かで多様な人生がそこにはあった。

豊かな自然に住む神々と人間の果てしない欲望との戦いを壮大に仕立て上げるアニメーションと久石譲の奏でる美しい旋律には何度観ても感動させられる。
ジブリの最高傑作を超えて、日本映画の最高傑作のひとつだと確信させられた。

現代人にとってのベストな生き方とは「人間らしく」生きることにあるとされていると思う。
人種、性別、信仰、、、全ての人に平等が保証され、持てる権利の水準が上がった現代は今までの「人間らしく」とはまた別の意味の「らしく」が求められているように感じる。
より楽に、より効率よく、という形を重視した生き方が求められ、達成のためには自然環境、時には万人の為の平等までも犠牲にすることを厭わない現代。
欲望のままに生きる私たちの目に映る善悪の境界線は曖昧となり、目の前のメリット・デメリットでしか判断ができなくなってしまっている。
何かを生み出すときは、何かを犠牲にするとき。
犠牲から生まれる憎しみ。
生まれてきてしまった憎しみが消えることはない。憎しみは連鎖する。
憎しみが形となって現れた時、社会は危機に瀕する。
今の世界情勢を見るに、平和や平等が保証されていた社会はもう存在しないのかもしれないし、そもそも初めから存在していなかったのかもしれない。
多くの命を犠牲に、他者を憎しみ恨むことから成り立つ「人間らしく」とは本当に達成されるべきものなのか考えさせられる。
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