Maki

スペシャリスト 自覚なき殺戮者のMakiのレビュー・感想・評価

4.0
どんな理由があっても人殺しを肯定してはならない、アイヒマンを許してはいけないと思います。死刑判決が下ったのも、当然と言ってしまえばそこまでです。
しかし、悪かったのは果たしてアイヒマンだけなのでしょうか。
この裁判で印象的だったのは、「アイヒマン個人の罪」に対して裁判が行われているようには見えなかったことです。まるで見せしめのような。ナチスのユダヤ人問題全てを、強制収容所の移送を指揮したアイヒマン一人にぶつけているように感じました。
映画『ハンナアーレント』の中で、「世界最大の悪はごく平凡な人間が行う」というハンナのセリフがありますが、その通りだと思います。
映像の中のアイヒマンは、かつてナチの高官であったという肩書きさえ無ければ、私の目にはとても平凡な人間にうつります。きっと彼は愛国心と責任感が強く、几帳面で忠実な性格だったのではないでしょうか。それをナチに悪用されてしまった。さらに戦争という状況下において思考が停止してしまい、何が正しいのかすらわからなくなってしまった。それでも愛するドイツのため、ひたすら国に命を捧げた人物なのだと思います。
思考の停止は、誰にでも起こり得ることです。それがいかに恐ろしいことか、この映画を通して改めて感じました。何が正しくて、何が間違っているのか。大衆の意見=正しい...と思い込んで簡単に流されるのではなく、常に考え、発言する勇気を持たねばならないと思います。そして、ナチの問題を「悪だ」という一言で片付けるのではなく、教訓にして生きていかないといけないと思いました。
Maki

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