青山

バッドランズ/地獄の逃避行の青山のレビュー・感想・評価

3.8

15歳の少女ホリーは、25歳の清掃員の男キットと恋に落ちる。しかし、彼女の父親は清掃員なんかと付き合うのは許さないと突っぱねる。ある日、キットはホリーと駈落ちするために彼女の家に侵入するが、勢いで父親を射殺してしまう。2人は家を焼き、当てのない逃避行を繰り広げるが......。


当時無名の脚本家だったテレンス・マリック監督の、監督デビュー作。
制作当時は日本では劇場公開されず、50年以上の時を経て今回劇場初公開となった本作。初めて行った刈谷日劇さんで観てきました!


いやぁ、観に行ってよかったよ〜。かなり好きな感じだったし、もうちょい若い頃ならもっと刺さってそうな映画でした。

『キャリー』よりちょっと前のシシー・スペイセクが主人公ホリー役なんですが、彼女が作品の空気感を決定してる感じがあり素晴らしかった。可愛いく無垢で儚くてちょっと不気味であっけらかんとした感じもある、あの独特の雰囲気。恋する少女の煌めきと居場所のない虚無感が同時に発散されてます。彼女が語り手でありつつ、終盤まで恋人のキットに付き従っていてあまり自分の意思を前面に出してこないことでどこか神の視点的にも感じられるふわっとした語り口も良かったです。
一方、マーティン・シーン演じるキットもイケメンなんだけど何考えてるのか分からない不気味さがあって良かったですね。

そんな2人の"地獄の逃避行"は、地獄と呼ぶには穏やかで、これが人を殺して逃げてるんじゃなければ長閑で平和とさえ言えそうなもの。アメリカ西部(?)あたりの雄大な風景がまた美しくて、ぽけ〜っと弛緩して見惚れてしまいながら時々逃げたり人を殺したりする極端な緩急が良かったです。殺しのシーンも最初のうちはハッとさせられるんだけど、だんだんキットも観てるこっちも慣れてきて「あぁ、また、殺したな」くらいにしか思わなくなるのが怖いです。最初のうちは一応理屈があって殺してたのが、もう数人増えようが死刑は変わらないくらいになってくるとカジュアルに人を殺すようになりますからねアイツ。恐ろしいわ。
、、、恐ろしいんだけど、その未来の無さにめちゃくちゃ憧れてしまって、私もこんなふうに好きな女以外何もかも捨てて破滅へ向かって突っ走りたいなぁと思わされなくもない、でもそんなこと出来ないから映画を観て擬似体験するわけですな。

そんで、そんな行き当たりばったりで先の無い逃避行の行き着く先もなんら特別なことはない結末なんですが、キットが最後まで感じの良い野郎なのが凄い。なぜか警官たちの人気者みたいになる彼と、醒め切ってしまったようなホリーとの落差ですよね......。クライマックスで終わらずにここまで描かれているからリアルで残酷な余韻が残る(でもどこか清々しさも感じる)印象的な終わり方になっててとても良かったです。
青山

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