蛸

吸血鬼ノスフェラトゥの蛸のレビュー・感想・評価

吸血鬼ノスフェラトゥ(1922年製作の映画)
4.6
ため息が出るほど美しい映画です。幻惑的でありながらゴシック!崇高美学が感じられる美しくも不気味な映像。あぁ素晴らしい。
スタッフクレジットのフォントからしてかっこいいんです。抽象化されたセットが怪奇的な雰囲気を醸成し、そこで展開される役者たちのサイレント映画特有のカリカチュアライズされたオーバーな演技がこの超自然的な雰囲気にマッチしています。
同じドイツ表現主義でも、『カリガリ博士』と違って大自然で撮影された部分があるので、閉塞感はあまり感じられません。冒頭の野外のシーンなんかとても牧歌的です。その代わり、不気味なところはとことん不気味です。このバランスが良い。自然の切り取り方にしてもいちいち不気味だったりするところもあります。
もちろんノスフェラトゥの佇まいも、後のルゴシやリーのドラキュラに負けてない存在感があると思いましたよ。棺桶から紐で引っ張られたかのように起き上がるシーンにはぎょっとさせられます。個人的にはノスフェラトゥがやってくるまでに、人びとが異常を来すしていく様子と食虫植物や蜘蛛の捕食の映像を並行して提示する件が印象的でした。そこからのノスフェラトゥの乗ってる、洋上を漂ってる船へのズームなんか最高ですよ。この映画唯一のズーム(光学的にではなくて人力で被写体に寄っている)が「ついにやってきた」感を演出してます。
クライマックスのノスフェラトゥのシルエットを使った演出もほんとにストレートで素晴らしい。サイレント時代の映画は映像への力の入れ方が凄いですね。シンプルな力強さが感じられます。

お話自体はストーカーの『ドラキュラ』の前半をまとめたようなものとなっています。キャラクターの名前が違うのは権利者に無許可で制作されたものだかららしいです。そのあたりの事情は『ドラキュラの世紀』という本に詳しいです。
ちなみに僕が見たのは90分ほどの長さのバージョンでした。
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