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シュラム 死の快楽の消費者のレビュー・感想・評価

シュラム 死の快楽(1993年製作の映画)
3.8
・ジャンル
サイコロジカルホラー/ドラマ/ゴア/アートフィルム

・あらすじ
とあるアパートで孤独な日々を送る中年タクシー運転手、ロタール・シュラム
想いを寄せる隣人の娼婦マリアンヌとは親しくしながらも都合良く扱われるばかり
コンプレックスに苛まれ歪んだ欲望を抱える彼は自宅を訪ねてきたキリスト教勧誘の男女を殺害してしまう
そして証拠隠滅の為、壁をペンキで塗っていた所をハシゴから転落
死の間際、彼は走馬灯の様に抱いてきた幻想や幸せだった若き頃の記憶、そして欲望と孤独が生み出した悪夢の様な幻覚に呑まれていき…

・感想
「ネクロマンティック」シリーズ等で有名なドイツの奇才、ユルグ・ブットゲライト監督によるサイコロジカルホラー作品

ゴア描写や悪夢や死を匂わせる幻覚が多々あるので便宜上ホラーとは書いたものの監督らしいエロス(生/性)とタナトス(死)を追求した世界観の元、孤独な中年男性の悲劇とコンプレックスを描いた作品なのでどちらかというとドラマ性が強い
そういう意味では過去作「死の王」とも近しい印象

娼婦マリアンヌに向けられる好意の裏に秘められた歪んだ欲望
その発露としての自傷行為や厭世観及び自己嫌悪の爆発として成される宗教勧誘の男女の殺害
何者にもなれなかった孤独な男が無敵の人にもなりきれず辿る間抜けな死
死んでやっと存在が示せたという悲哀
都合良く扱ってきた男がいなくなった事で助けを失い悲惨な目に遭う想い人の娼婦(これは彼がヒーローにもなれなかった事を意味している?)

こういった物事が比喩を多用した映像表現と時系列を行ったり来たりする歪なループによって走馬灯として見事に表現されていてアートフィルムとしての出来はなかなかに高い
特に度々登場する白いペンキと血、切断された脚や義足の幻覚、異形と化したオナホなどの使い方が絶妙
中でも白ペンキは欲望の発露の末に流れた血を覆い隠す物でありながら精液という欲望その物の比喩としても機能している点が主人公ロタールの心理を秀逸に表していた様に思う

また劇中で彼は口紅を収集し、現実ではそれをチンポに塗り幻想では死んだ女性に塗る
更に女性の仮面を被ったりと好意や欲望の対象である人間に手を出す事が出来ない代わりに自分の体をそれに見立てていたりという描写も潜在的に多くの人が抱えているであろう無敵の人にもなれないが故の自己破壊と欲望の対象との同一化という歪んだ願望などが見て取れて巧い
公開当時よりも現代の方が一定の共感を覚える人も多いんじゃないかという面でも先を行っていて興味深い
そして最も痛々しいシーンであるチンポ釘打ちも本体を破壊するのではなく包皮で亀頭を塞いでいる様に見えて欲望への罪悪感も感じられる

描写は極めて過激ながら約1時間と尺が短くループも多いので観やすいと言えば観やすい
ただ説明が少ない作品でもあるのでWikiのあらすじを読んでやっと整理出来た部分もあるほど難解と言えば難解
それでもゴアや幻想の描写と同じくらいロタールの所作から色々感じ取れ、その切なさや虚しさが重くて割と良かった
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