くりふ

ラガーンのくりふのレビュー・感想・評価

ラガーン(2001年製作の映画)
4.0
【クリケットで無血革命】

アーミル・カーンの過去作という興味から、DVDでみたのですが、「ボリウッド4」含めここ十数本続けてみてきたインド娯楽映画の中で、私には一番スッキリ、素直に共感できる作品になりました。

完成度としての凄みは薄く、出だしは舞踏(雨乞い)含めユルすぎね?とは感じたものの、対立関係が立つ辺りから…引っ張りますねえ!逆に、大らかな作りだから、思い入れできる余白があるのもいい感じ。

1893年、英国植民地時代のインド。干ばつが続く、とある農村。農民たちは年貢(ラガーン)が納められない…と藩王に直訴するが、あることで駐留軍の反感を買い「三倍納めるか?三年免除か?」を賭け、英軍vs農民でクリケット勝負をすることになってしまう…。

成程これは『カジノ・ロワイヤル』が成立する国だ思いましたが(笑)。ざっくり言うと、七人の侍クリケット版少年ジャンプ風味、でした。

もうホント、熱血系の王道ですよ。初めはルールも知らない農民たち、呆然とするばかりだけれど…結末はけっこう、予想つきまくり(笑)。

バットとボールによる無血革命。侵略者を撃退するのは銃ではない!

そんなキレイに行くかよ!思いますが、そこはボリウッドの底力(笑)。こういうかたちで信念をスッキリ貫く描き方は、貴重だと思います。

例によってミュージカル入りですが、本作のそれは、かなり自然です。「ミュージカル説得」なんてボリウッドならではで、意外や説得的(笑)。

私が一番好きなのは、村祭りでの大らか群舞「Radha Kaise Na Jale」。羊飼い女と遊ぶクリシュナへの、ラーダの嫉妬が歌われますが、これが、物語中の三角関係と重ね合わされて、二重に面白いんです。

勝気な村娘ゴゥリを演じるグレーシー・シンさん、しなやかさ不足で、ダンスは今ひとつですが、タヌキ系の顔と併せ、演技がキュート!彼女とアーミルの丁々発止がすごく楽しいナンバーになってますね。

で、私は男衆の群舞に感心することは殆どないんですが、本作は別。全体、ありえないが柔らかな照明含め、優しさと微笑ましさに溢れ、少ない経験値ですが、ボリウッド群舞・私的ベスト3に入りました。

で、この群舞エピソード、ブバンとゴゥリの物語のように見えて、やがて英国娘エリザベスの物語につながるところが、ちょっと深い。

これは字幕では反映されてなかったようで、後から知ったんですが、もうひとつのラーダの物語として、後追いで泣けるのですよ…。

英国娘で言うと、恋心が盛り上がると、彼女も踊りだすのが笑える!でも演出しようがなかったのかな…両手上げスカーフ広げ走るばかり。…魅せられてのジュディ・オングか!思っちゃいましたけどね。

クリケットの試合では、私も事前にはルールを知らなかったのですが、わからなくても殆ど、問題ないと思います。

打撃時は二人組で、アウトになるまでひたすら打って走って、11人のメンバー全員アウトになったところで、点の多いほうが勝ち。

その程度わかっていれば、じゅうぶん面白くみられると思いますし、この基本ルールを活かして、全員の見せ場が作られているんですね。アーミルもこれを活かして主役をしっかり始終、はってますし。

でも当然、素人の即席チームだから、どんどん倒れていくわけです。アウトになれぬと逆に、おじさんが疲れてくるなんてのも切ない!最後はやっぱり、なにげーに手に汗、握っちゃいました。

インド人観衆のエキストラは二千人とか。山腹埋まるのが凄い!(笑) 試合が始まると、少しドキュメントタッチで冷めた感じが出てくるし、各メンバーの個性をもっと出せなかったか?という不満もあります。

また、DVDに収録された版は一部、短縮してあるらしく、つなぎのぎこちなさをナレーションで誤魔化したところもあります。

それでも、それらを上回る魅力が詰まっていると、私は思います。社会派の視点も持つアーミルは、製作も兼ねていますが、文字通り、不可触民に触れている描写なども、出来すぎですがポイントでしょう。インド人の願いとしては、やっぱりこういうことはあるんじゃないか。

藩王が乗る象さんと、怪しい占い師のオッチャンがいい味出してます。

その他、まだまだ書きたいですが、長くなったのでこのへんで。

「どんなに靴底が厚くても、それを貫く釘は絶対あるもんだ」

…この台詞、打たれましたねえ。

<2013.6.24記>
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