【幻のフィリピン映画】
我が聖書『死ぬまでに観たい映画1001本』に掲載されている鑑賞難易度Sランク(輸入でも入手困難)のフィリピン映画がアテネフランセで上映されるということだったので観てきた。
本作を観ると、近年日本で作られる貧困映画が如何にイメージのパッチワークで、貧困による心の変化をないがしろにしているのかがよく分かる。
まず、本作はいい意味で体感時間が5時間に感じる作品だ。フィリピンの田舎町から都会マニラに行方不明のカノジョを探しにやってきた気弱な青年が如何にして狂気に陥るのかを、2時間の壮大な旅を通じて少しずつ紡がれていく。
彼女を探しに行ったものの資金がなくなり、工事現場のバイトで凌ぐ。経営者はピンハネのプロ。契約書には1日4ペソと書いてあるのに、「タイワン」という独自ルールで1日2ペソしか貰えない。「タイワン」とは、経営が厳しくなった場合経営者が発動するルールで、給料受け取りを先延ばしにするか、減給される代わりに今受け取るかを選ぶもの。多くの労働者はその日生きるのも厳しいので、後者を選びドンドン経営者から搾取されていく。
この理不尽な現象から生まれてくる友情、そしてその友情すら潰していく事件をスタイリッシュな映像、ドープな音楽で描いていく。ただ、決して表現に逃げることはない。常にフィリピン社会と個人の関係に向き合っているからこそ、この青年に惹かれていく。
あれだけ気弱で優しい青年が怒りを爆発させた時、私は気づいた。これは日本もあながち他人事ではないのでは?と。SNS、特にTwitter界隈において、人々が火炎瓶を投げつける様子が散見される。この暴力的な現象は、まさに社会の不条理に飲まれ憎悪の塊となった人々が起こすものだと言える。
本作は劣悪な社会による不条理が如何に人間を変えてしまうのかを描いた傑作と言えよう。