ぺむぺる

血を吸うカメラのぺむぺるのレビュー・感想・評価

血を吸うカメラ(1960年製作の映画)
3.0
常々「映画とは見たことのない景色を見せてくれるもの(だから素晴らしい)」と思ってきた者としては、なかなかに居心地の悪い作品。特にホラー好きは身につまされる内容なのではなかろうか。

カメラ(の三脚)に刃物を仕込み、死にゆく女性の恐怖に歪む表情を映像に収めていく主人公。元祖サイコホラー、いわゆる「人間怖い」の先駆けなわけだが、その人間をさして異様に描かないというのが本作の物足りなさでもあり、恐ろしさなのだろう。

主人公が撮影した〈恐怖映像〉と同様に、主人公の異常性もまた画面上にははっきりと映らない。そこで浮き彫りになるのは、「彼の」ではなく、彼が執着する「映画という行為の」まがまがしさ、それに嬉々として与する観客の異常性である。主人公の奇行を期待する我々と、〈恐怖映像〉の出来を気にする主人公は、いったい何が違うだろう。本作のテーマである「覗き行為」のいかがわしさは、どんな人間でも「(この)映画を見ている」時点で無縁のものではないのだ。

同時期の「サイコ」が見事なストーリーテリングでサイコホラーというジャンルの楽しみ方、すなわち「奇人の奇行・奇態を見る喜び/恐怖」を観客に明示してくれたのに対し、本作はそんな「観客という安全席」をハナから否定してみせる。「サイコ」の系譜に連なる傑作が「羊たちの沈黙」であるならば、本作の末裔は「セブン」ということになるだろう。

「人間怖い」の最初期作でありながら、さらにその深奥にある「〈わたし〉が怖い」をあぶり出す。まさに天才の所業というほかない傑作だが、やや観念的に過ぎるのとストーリーが所々ゆるいのが気になり100%楽しめたとは言い難い作品。観客にとってはもちろんのこと、作り手たちにとっても早すぎたテーマだったのかもしれない。
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