三樹夫

マルサの女の三樹夫のレビュー・感想・評価

マルサの女(1987年製作の映画)
4.3
70年代の東映はヤクザや刑務所の実態をリアルに描くという裏社会見学とでもいうような映画を連発していた。本物のヤクザや刑務所帰りから聞いたエピソードを織り交ぜリアル感を出し、観客の下世話な好奇心を刺激しヒットを飛ばしていた。所謂不良性感度の高い映画を作っていたのだ。そして80年代も後半バブルになり、東映的な不良性感度の高さに都会的な感性を合わせたモダンな裏社会見学映画がこの映画となっている。
脱税の仕方や税務調査の裏側全部見せますみたいな入念な作り込みで、取材に力を入れたことが伺える。ラブホは脱税しやすいや、国税のゴミ漁りなどの完全にブルーワーカーぶりなど、脱税する側調査する側双方のディテールの細かさでリアル感を高めている。っていうか国税が碌に家に帰れないのってリアルエピソードだろうな。

経済的豊かさと繁栄の裏に浮かび上がる脱税をテーマに見えてくるものとは、金・権力・女と絵に描いたようなガハハ具合となっている。暴対法施行前でヤクザが大手を振って跋扈し、銀行も預金さえしてくりゃ何でもいいわと思いっきり脱税の片棒担ぐと、世の中金が全てやと言わんばかりの狂乱模様。昭和ってやっぱおかしいわ。
しかし権藤という経済的狂乱にずっぽりハマりながらもどこか少年性を失うことが出来ない清濁混交のような人物が特異だ。国税に入った完全に自分の敵である板倉に対して、栄転おめでとうと素直に言ってしまう。権藤というキャラクターがいることで、ガハハ世界でありながらもどこかまだ人間の善性を信じているかのような作品となっている。権藤は嫌な奴なんだけども、人たらしというかどこか子供っぽくって憎み切ることが出来ないというのを、山崎努が抜群の演技力をもって表現している。この作品は板倉だけでなく観客も権藤のことをどこか憎めない奴だなと思わせないと成立しないのだが、それを見事に演じて成立させておりもはや恐ろしい演技力だ。
また板倉はシングルマザーのキャリアウーマンで、津川雅彦を後ろに乗せての2ケツのシーンは、板倉がどういったキャラクターかというのが画ひとつで分かる良いシーンだ。部下を人目につかないところへちゃんと呼んだり先進的な女性というので描いていることが分かる。ここに伊丹十三のフェミニズム的要素が見えなくはないが、私は未読なのだがエッセイなどではフェミニズムやジェンダーという言葉は出てこないものの早い時期からそういった事柄について書いていた人だったらしい。

尖鋭性と大衆性が丁度いいバランスの映画だ。下世話な好奇心を刺激しつつ、板倉と権藤のリリカルな関係もある。ハードなところとウェットなところがいい塩梅で、伊丹作品の中で一番の秀作であると思う。
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