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男はつらいよ フーテンの寅の都部のレビュー・感想・評価

3.4
監督が山田洋次氏から森崎東氏に一時的に変更された影響なのか、主たる舞台は伊勢の温泉旅館となっており、とらやの一同の登場シーン──特に妹であるさくらの出番──は前作前々作と較べると著しく少ない。しかし印象的な場面には恵まれている。

目の前で成立した縁談を祝う為に寅が金もないのに豪奢にそれを仕切る一方、寅に所帯を持たせて落ち着かせようとした一同との怒りのすれ違いは、本作の人情劇の結末によくよく作用する結果を招いているからだ。曲がりなりに自分を愛する”家族”に顔向け出来ない体たらくを晒す己についつい耐えかね、公の場で口にする悲しき虚言が締め括りに据えられているが、そこで本作に登場するテキ屋の末路とも言える人物の姿がふっと脳裏に過ぎる。

それはまるで寅の未来の姿のようだと。

しかしその末路たる人物関連のエピソードにおいては、彼のやくざ者として筋の通った一面が見られる部分もあり、思えば映画シリーズが始まってからこうした粋な姿を見るのは初めてかもしれない。

しかしそれでもやはり彼は変われず、その姿こそが男の本懐だと先達の落伍者に深深と頭を下げる姿には筆舌し難い気持ちを抱かされる。正直 旅館の女将との話は割と”いつもの”感じなので言及するような点はあまり見られないのだが、当時を思えば普遍的な縁談という堅気への道筋を期待させる始まりから、『そんなのってないよ』という気分にさせられる御破算なオチは前作前々作からすると変則的かもしれないが同様の虚しさを思わせる幕切れと言えるだろう。

しかし 出番が限定されたことで、さくらがあまりにも理解のある妹ちゃんの側面が目立っていてやや笑えるところがある。
”理解のある彼”という属性を構成要素とした作品が現代にはあるが、作品続行の為にそのヘイト管理を上手くやってるだけで、寅さんもそうした創作と似たような側面が大いにある気がするのだ。
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