しゅん

歴史の授業のしゅんのレビュー・感想・評価

歴史の授業(1972年製作の映画)
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穏やかな苛立ちと最後の不意打ちにグラグラする80分。

後部座席の右側から中心目がけて向けられたカメラによる運転長回しと、運転手である険しい顔の若者がローマ帝国のおっさんたちによる「C」(カエサル)の話をひたすら聞くシーン。主に二つのシークエンスで構成されているが、カエサルの話はほとんど頭に入らない。元兵隊のカエサルの印象「老けてた」が頭に残るのが関の山。それよりも紫陽花だ。ワインを嗜みながら話す元老院(?)のおやじの会話は幾度も位置を変えながら固定カメラで撮られているが、後ろに映る紫陽花の群れがやたら気になる。終盤、右側に少し俯いてる若者の顔のアップが映るカットでは、左後ろに夥しく咲く薄紫の花が前に迫り出してくるような、不気味なインパクトがある。その不気味さに慄いていたところに、おやじの数秒の横顔アップの直後、80分間一切音楽がなかったところで鳴り響くヨレた音のオーケストラ!カエサルの顔の噴水!白い大理石の瞳孔は見開き、まるでデスマスク。開いた口から溢れる水。音楽はやみ、甕の裏に反射する水の揺らめきが、驚きを置き去りにする。このラストにはグッときた。まぁ狭い道を通る車とぶつかるスレスレを通る対向車の映像の時点でグッときてましたが。
抽象的な印象としては、歴史にも日常にも打ち捨てられた実存のようなものを感じました。何故かわからないけど。
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