KenzOasis

ミュンヘンのKenzOasisのレビュー・感想・評価

ミュンヘン(2005年製作の映画)
4.5
驚いた。まさかこんな名作を見逃していたとは。
1972年のミュンヘンオリンピック事件……への報復の物語。

この事件のことは表面的なことだけ知っていたのだが、まさかその後にこんな応酬があったとは。選手たちの最期がキツイ。宿舎で撃たれたモシェ・ワインバーグを演じたのは実の息子さんだという。どれほどの思いだったのだろう。

「黒い九月」「モサド」のこともあまりわかってなかったので、序盤で主人公が呼び寄せられるシーンあたりはちょっとついていけなかった。
その後にエフライム(演:ジェフリー・ラッシュ)が任務の話をする件でようやく理解。地獄の任務の幕開けを悟った。

ミュンヘンオリンピック事件当日の様子を一気に見せるのではなく、物語が進むにつれてより詳細に迫る構成は、個人的にはすごく良いと思った。血飛沫を夕焼けの雲とリンクさせるなどの巧妙なトランジションも際立っている。牛乳に血が混ざっていくなかから薬莢を拾うところとか、強烈な画。

一番印象的だったのは、車窓越しの主人公に合わせていたピントが、カメラが見下ろす角度に上がると共に窓の反射に移動し、仲間の動きを見せたかと思いきやもう一度カメラが下がり、主人公にピントを戻すシーン。シンプルなんだけど鮮やかな撮影が光っていて、思わず「すげぇ」と言ってしまった。こういうカメラワークもやるんだとちょっと意外だったな。

また、ユダヤ人である主人公の暗殺チームが正みたいにはならず、国のためという大義を信じて殺めているのに翻弄され、苦悩する姿もあって良かった。

こんなふうにして狂信的になれる人は総じて幸せにならない。ただただ振り回され、大金の渦に利用され、心を削って死んでいく。何も残らない。それでも世界は衝突し続ける。
狂ったままの歯車で、文字通り世界は「騙し騙し」動き続けるんだろうなあ。

余談だが、ダニエル・クレイグが銃を構えるシーンが何個かあって、これが見事にボンドの時と同じ。
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