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女王陛下の戦士のSのレビュー・感想・評価

女王陛下の戦士(1977年製作の映画)
3.6
第二次世界大戦時代のドイツ占領下のオランダ、名門大学の学友の青年が、戦争に巻き込まれてゆく戦争青春群像劇。

本作の主人公エリック・ランスホフのモデルともなっている、実際に英国亡命後オランダ亡命政府のスパイ活動を行い、英国空軍RAFパイロットになってドイツと戦ったエリック・ヘイゼルホフの自伝が元になってる。

ヴァーホーベンにとっては念願の企画であり、『危険な愛』『娼婦ケティ』と、次々ヒット作を放ってきた彼が満を持して当時のオランダで、最高額の予算をかけて撮った渾身の作品。

物語が始まるのは1938年。
(ヴァーホーベンが産まれた年である。)
冒頭でオランダがナチス・ドイツとの戦いに勝利を収める直前、オランダのウィルヘルミナ女王が、亡命先のイギリスから故国へ帰還する映像が映し出される(女王の隣に控えているのは、原作者のエリック・ヘイゼルホフ自身)。
実写と、映画のために撮られた映像が巧みに組み合わされたこのシーンは、物語のラスト、オランダ解放の劇的な瞬間へとつながるものでもあり、時制を混ぜ合わせて映画の物語機造をつくりだす、オランダ時代のヴァーボーベン演出の特徴をよく示すものでもある。

物語が始まる'38年のライデン大学のシークエンスへ。学生寮で新入生歓迎会が行われているなか、主人公のエリック(ルトガー・ハウアー)が紹介される。「ナチス・ドイツの強制収容所を思わせる」と、ヴァーホーベン自身が語る歓迎会のシーン。
上級生たちの一方的な新入生虐めを描きながら、その虐めを甘んじて受け入れ耐えたエリックと、学生寮の首領的存在であるヒュース (ジェローン・クラッベ) の友情へと発展させ、写真撮影によって6人の仲間たちを一気に見せて印象づける巧みな演出を導き出す。そしてここを基点として、ナチス・ドイツとの戦いによって、6人の仲間たちがその後辿る運命が描かれてゆく。

戦争ドラマであると同時に、青春群像劇の様相をももつ。特に大学生活を過ごす仲間たちの姿は生き生きと活写されている。
しかし、宣戦布告からほとんど日をおかず、ナチス・ドイツの前にオランダは降伏。
ある者はレジスタンス運動に参加し、ナチス親衛隊に入隊する者(オランダはもともとドイツ系人口が多く、国民が一機に反ナチス・ドイツとなったわけではなかった)など、敵味方となりながら、過酷な境遇で時代を生き抜きやがて、死んでいく。
主人公エリックは視力が悪く丸眼鏡をかけているちょっと情け無いキャラだが、女王の指示で英国に渡りスパイとして潜入した夜会での紳士服は絵になり美しい。敵となった仲間との、男同士の黒服のダンスシーンの退廃美は、映画史でも印象に残るものだろう。

ヴァーホーベン的なエロ・グロシーンも頻出するものの、控えめである。彼の作品では、最も正統派な映画ではないか。
もっとも爆撃でもげた兵士の足、英国への逃亡が失敗した仲間の一人がドイツ兵に拷問され、仲間を密告し、銃殺され砂穴に葬られるシーン、ヒュースがとある体勢で手榴弾を投げられ爆死など、なかなかの遊び様。ドイツ軍が攻め込んでくるなかでセックスする男女、エリックとエスターの隠れた三角関係の情事、ドイツのために働く男女のオフィス・ラヴ…。『危険な愛』やその他の作品で見せた激情的な描写とは異なり、本作『女王陛下の戦士』のセックス・シーンはどこか人間的な温かさが通う。

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