蛸

女王陛下の戦士の蛸のレビュー・感想・評価

女王陛下の戦士(1977年製作の映画)
4.2
ナチス占領下のオランダにおける若者たちの人間模様を描いた群像劇。オランダ時代のバーホーベンによる歴史大作。かなりスケールのでかい映画なのでバーホーベンらしさは他の作品と比べて控えめな印象だが、随所にある監督の作家性が垣間見える演出が楽しい。
バーホーベンらしさとは、端的に言うと「人間とは飯を食って寝てクソしてセックスするだけしか能が無い上にどうしようもなく残酷なくだらない存在である」という絶対的事実に裏打ちされたシニカルな目線である。この映画においても登場人物達の行動や死は突き放した目線から描かれる。裏切り者と祖国の英雄が同じ目線で描かれるのだ。
同じ大学の同窓であった登場人物達は戦時下の混乱の元でそれぞれの道に進んでいく。彼らの間にかつて存在していたはずの友情は環境の変化に伴って以前のままのものではなくなってしまう。
エリックとヒュースの辿った運命を見ると人間の行く末を決めるのは結局のところ運でしかないという達観が感じられる。全てが終わった後で、大学時代に撮った集合写真を見つめるエリックの表情がそのことを物語っているように思えた。彼の成功は時流に乗った結果でしか無いように見える。レジスタンスたちも絶対的に英雄視されているわけではない。ここら辺の視点が発展した結果『ブラックブック』に繋がっていったのだと思われる。
全体を通して裏切りや死に塗れた物語が続くが、ところどころに挟まれるユーモアや過酷な状況でもたくましく生きる主人公達の存在が突き抜けた爽やかさを映画に与えてもいる。
勇壮な音楽とともに オランダ国旗の上をスタッフロールが流れるオープン二ングからは想像できないほど深みのある作品。単純な「英雄たち」の話ではない。純粋にエンターテイメントとしての完成度も高く、テンポの良さからか2時間半全く飽きることがなかった。
時代設定から、やはり同監督の『ブラックブック』を彷彿とさせるが、こちらはより群像劇的で男同士の友情に重きを置いたものとなっている。登場人物達は再開するたびにそれぞれの立場を変えている。激動の時代が終わった後に残る無常感が沸々と湧いてくるラストシーンの味わい深さよ。堂々たる傑作。
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