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鏡の中にある如くのmaiのレビュー・感想・評価

鏡の中にある如く(1961年製作の映画)
3.9
なんとも感想を表現しにくい映画でした…確実に言えるのはこの映画が本当に美しいということです。

精神を病んだカーリンへの接し方に悩む作家の父・夫のマーティン・弟のミーヌス。
初めは仲睦まじい家族のように見えても、蓋を開けてみると「装っている」に過ぎないことがすぐに分かります。
仕事を差し置いて家族に愛を割くことのできない父親への当てつけかのような劇を披露する弟、精神分裂症?のためかは分からないけれど夫を切り捨てようとするカーリン、壊れていく娘を悲観しながらもそれすら小説の題材にしようとする父、妻の扱いに手を焼く医師である夫マーティン…2人きりになれば少し本音を見せるけれど、4人揃えばすっと殻に閉じこもり、何事も問題が起きてないかのように振舞います。
そしてカーリンはどんどんと弱っていきます…(私自身の信仰も関係しているとは思いますが)カーリンの見えない神の存在を疑う余地なく信じ、畏れる姿は狂ってるとしか言いようがなかったです。しかし、そんな彼女の姿はどこか純粋さも感じさせるので不思議ですよね…カーリンの幻想を散々と家族(父と夫)が砕こうとするので、最初は「神などいない」という主張を元にした映画なのかとも思いましたが、中盤からはそういうわけでもないのかな?とも思えました。
最後は、父が息子に「神と愛は同じだ」的な話をして終わります。父との間に壁を感じていた息子は喋れたという事実に驚く…というものでした。
神とは愛によって形作られていくのだ、と言いたいのか…それとも、神を頼りすぎると姉のように何が現実で何が妄想か分からなくなってしまうが、愛は変わらず頼りにすることができるはずだ、と言いたいのか…どう解釈すればいいのかわたしには難しかったのですが、最後の方では狂っていくカーリンに反して、父も夫も弟も愛を表すようになって、特に弟の姉を見つめる目なんてあまりに綺麗過ぎて引き込まれました。
ベルイマンのバックグラウンドを知ってたらもっと理解しやすい映画なのかもしれません…事前知識なしで挑んだので、勉強不足でした。笑

ストーリーは息苦しいまであったし、登場人物が4人だけで島内で完結してしまうので、閉塞感もあって…ラストシーンでは「あ、やっと終わった…」と思いました。悪い意味ではないです、それくらい映画の(特に)後半部分は引き込まれました。前半は正直、家族っぽい会話が続くので眠たくなりました。笑
しかし後半!水や自然の美しさに反して、姉はどんどんと壊れていくし(日記のあからさまな伏線を回収してます)、ついには弟と体を重ね合わせるという事実に対する罪の意識で彼女は追い詰められていきます。そのカーリンを巡る苦悩が混じり合う感じに引き込まれていきました。
実際に体を重ねるシーンを描いたり、カーリンの幻視を描かずとも、その事実を衝撃的なものへと変貌させてしまうのは監督の力によるものでしょうか。

父も苦悩していて、彼の言葉は本当美しかったですし、核をついてると思いました(マーティンか弟が言ったように、綺麗な言葉を並べたくっただけかもしれませんが)。
「自分の周りに引かれた周囲との境界である円を破ったと思っても、その外側にはまた別の円が描かれてる」
「神は愛と同じ」
的なセリフは印象に残りました。またカーリンの夫に対する
「立派な態度と行動で傷つける。愛があれば傷つかない」
というセリフも、精神を病んでるからそう感じる…というわけではなく、実際夫も言われた通りなのではないかなとハッとさせられました。図星だったのかもしれないな、と。

https://search.yahoo.co.jp/amp/s/gamp.ameblo.jp/pyscipks/entry-11106017538.html%3Fusqp%3Dmq331AQECAEoAQ%253D%253D
このサイトを引用すると、「鏡の中にある如く」というのは「鏡に映るものはボンヤリとしてるが、時が来れば輪郭もはっきりとして、物が滅びても愛・希望・信心は残る」という意味だそうですが、確かになと思うとともに、残ったように見せるラストシーンだけれど、本当に何かが彼ら家族に残されてるのだろうか?とも思いました。

キャストは全員初めて見る(なんといってもベルイマンの作品はこの映画が初めてなので)方達でしたが、弟役の人はめちゃくちゃに美しかったし、あどけなさの残る行動(落ち着いて歩く父や夫に反して、弟は常に走ってたし、動き始めるついでに海に石とか投げちゃう)が重苦しい映画の題材に反して純粋でした。そして、何か姉に対する気持ちを秘めたような眼差し…上手いですよね。父も夫も彼女の病状に意外と冷静というか冷徹で、好きになれないのですが、弟の姉に対する愛は美しかったです。

終始美しかったというのも良かったです、白黒映画の水ってこんなに綺麗に映るんだと思ったし、人物の肌まで陶器のように美しい…そして、家の装飾も綺麗。だからこそ、神が降りてくると姉がいう部屋の不気味さが際立ってたようにも思いました。そして、扉の開閉や影が怪しげで…。

よく分からないうちにいつのまにか映画の世界に引き込まれてしまう作品でした。
上手く解釈してる方がいたら教えて欲しいくらいです!笑
mai

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