言語と言語の境界で。

ベルギーが産んだ鬼才ファブリス・ドゥ・ヴェルツの出身映画学校の設立者アンドレ・デルヴォーの代表作にして、私の人生ベストである究極のミュージカルラブコメの変態村に多大なる影響を与えたという大傑作シュールコメディ。
私の輸入盤デビュー作でもある。

言語や文化の差異によるコミュニケーションの不和、あるいは集団からの疎外や未知への恐怖を魔術的リアリズム的な演出で軽やかに描いた怪作。
とにかく画作りが美しい。ベルギーの冬の自然や風情ある街でひたすら見ていられる。

イヴ・モンタン演じるマティスはベルギーの大学の言語学教授。妻のアンヌはフランス人で、ベルギーの文化や言語にいまいち馴染めない。
ある時2人は喧嘩してしまうが、マティスは会議に行くために電車に乗る。すると何故かアンヌも乗車してくる。マティスは居眠りをする。

目が覚めるとアンヌは消えていて、列車は全く知らない土地へ。取り残されたマティスと2人の男たちは小さな村を見つけるがそこに住んでいたのはベルギーともフランスとも全く違う言語と文化の地であった……。


自分の知らない言語ばかりの環境で不安を感じるアンヌをこれでもかと描いた後に、アンヌの不安を蔑ろにしていたマティス本人が同じ目に遭うというシンプルな構成を全く類を見ない作品に仕立て上げたデルヴォーの手腕たるや見事。

男がパラシュートで飛んでるだけの変な映画を観て、観終わったらはしゃぎ出したり、どうにかホテルにたどり着いたら客もスタッフもみんな無言で無表情だったり、謎ダンスだったり、おそらくそれが彼らにとっての自然体なのだろうけどマティスたちには恐怖でしかない。
改心オチかと思いきやまさかのラストでビビる。

変態村が影響を受けた点としては、謎の村に迷い込むというストーリー、氷の張った湖にハマる男、村人たちの謎ダンスなど。
変態村の謎ダンスの元ネタを初めて見た時は爆笑と同時に感動さえ覚えた。

デルヴォーの主要長編は大体英語版で手に入るけど、何故かこいつだけ英字幕盤がない。
近々発売されるフランスの海外盤、仕様はまだ不明だけど英字幕付いてると嬉しいな。

• #輸入マグロ

事前に「魔術的リアリズム」だの「ベルギー版鈴木清順」だの「幻想映画」だのワクワクする形容を聴いていたのでめっちゃ楽しみにしていたのだが、まさにそんな感じの映画。傑作。
40分付近の過去？未来？が入り交じる超絶カットバック最高！

冒頭の部屋でアヌーク・エーメと牡蠣食べるシーンで切り返しのショットの間にエーメの服の色が緑から紫に変化しているという地味な演出も好き。意味は分からないが。
バスで駅まで移動するシーンの窓外の不穏さ、乗ってくる女学生との執拗な切り返し。最高！

• #2021Feb.riazor511

ヌーク・エーメとまったく視線を合わせず牡蠣の下拵えをするイヴ・モンタン。切り返しが終わるとひっそりジャンプカットになる妙な編集、デモに巻き込まれるバス、見つからない墓、列車事故、謎の村(モッキー『リタン』感)、延々と話される死の話題に追いつくラスト。