真一

エリート・スクワッド ブラジル特殊部隊BOPEの真一のレビュー・感想・評価

4.2
暴力による暴力の根絶は不可能ー。こんなメッセージが込められたブラジルの傑作映画だ。凄惨な殺戮シーンの連続だが、物語が進むにつれ、犯罪の連鎖を断つために真に必要なのは、機関銃でなく民主主義の力だと気づかされる。ストーリーは骨太だ。

 見せ場は、軍特殊部隊出身で人権派嫌いの武闘派ナシメントが、スラム街を食い物にする知事一派と警察組織を倒すため、天敵だった人権派のフラガと組むシーンだ。ナシメントが、州議会議員になったフラガのお膳立てにより議会公聴会に出席し、おぞましい警察犯罪と政治癒着を暴露するシーンは実に爽快だ。巨悪の心臓にぶちこんだのは銃弾でなく、言論だったというわけだ。

 ナシメントが特殊部隊の火力でスラム街の麻薬利権を牛耳る組織を粉砕したら、宙に浮いた麻薬利権を地元警察がそっくり引き継いでしまったという下りも、強く印象に残った。暴力によって暴力は排除できないという監督のメッセージをひしひしと感じる。

 スラム街の住民が麻薬密売に走るのは、それ以外に収入がないからだ。彼らは、行政からも近隣地域からも見放された棄民でしかない。座して死を待つぐらいなら、麻薬を売って稼ぐしかないと考える彼らを、責めることはできないだろう。そこに「みかじめ料」をあてにする組織が出現する。仮に組織が崩壊しても、汚職警官が入り込んで「みかじめ料」を取り立てるのだ。

 こうした地獄の無限ループを断ち切るためには、武力制圧という小手先の方法でなく、スラム街を豊かで希望に満ちた生活空間に変えるという抜本改革で臨むしかない。そうした切実な問題意識を、本作品はさりげなく示しているように思える。

 舞台は、ブラジルの観光都市リオデジャネイロ。リゾート海岸から少し入ると、法の支配が及ばないスラム街が広がる。ブラジル語で「ファヴェーラ」と呼ばれるスラム街で繰り返される残酷な殺人、リンチ、暴力、恐喝に、観る人は息を飲むだろう。そして、それらの凶悪犯罪は、スラム街を放置し、麻薬利権まで手に入れようとする政治家や当局者、警察の下で起きているという醜悪な実態を知ることになる。

 本作は、利権の上に君臨する政治家、当局者、警察組織を「システム」と呼んだ。まさに、その通りだ。程度の差こそあれ、どの国にも「システム」は存在し、市民を食い物にしていると考えていいだろう。日本を含めて。そうした構造を変えられるのは、暴力ではない。悪事を言論によって明らかにし、法律に基づいて事態を打開する民主主義が唯一の方法だと、本作は訴えている。見ごたえがある映画だ。
真一

真一