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下女のnetfilmsのレビュー・感想・評価

下女(1960年製作の映画)
4.2
 ある雨の日、夫は新聞を読みながら不貞を働いた男のゴシップに目を輝かせていた。右手に箸を持ちながら、左手で新聞を握る夫の食べ方は下品で、覗き見趣味も感じる。妻は裁縫をしながら、夫の傍から片時も離れようとしない。2人の子供たち(娘・息子)は窓際であやとりをしながら遊んでいた。冒頭のシークエンスから、この家にはある種の不穏さが漂う。外の豪雨もそうだし、新築二階建てのリビングには掛け時計が2つあり、不気味な表情をしたお面も複数飾られている。そして何よりこの家にはカーテンがないのだ。キム・ギヨンは観客の覗き見装置としての新築二階建てに仕立てる。1階には妻のミシンや寝室があり、この家の二階には大きなピアノが置かれた練習室がある。そして1階2階を繋ぐのは大きな階段である。今作では階段がこの家の中心であると言わんばかりに何度も登場する。夫のキム・ドンシク(キム・ジンギュ)は、紡績工場で女性たちにピアノを指導する先生だった。ある日、彼は自身にラブレターを書いてきたカク・ソニョン(オク・キョンヒ)を会社に告発し、工場から追い出す。彼は妻のイ・ジョンシム(チュ・ズンニョ)と2人の子供を何より愛していた。

 一姫二太郎と貞淑な妻との理想的な暮らし。韓国では当時は平屋が主だったろうし、新築二階建ての家というのは、少し遠いところにある家族の幸せの象徴だったことは想像に難くない。キム・ドンシクの家はこの辺り一帯でも非常に目立つブルジョワジーの家族だったが、体調が悪い妻のためにオ・ミョンジャ(イ・ウンシム)を家政婦(下女)として雇ったことから一家の破滅が始まる。婦人工連中からも大人気だった夫は、ある意味有頂天に立ちながら女たちの誘惑を易々とかわす。家政婦のミョンジャは害虫のネズミを素手で扱うような堂々とした女性でありながら、その妖艶な魅力に夫は魔が差し、たった一度だけ過ちを犯す。妻の3人目の子供のご懐妊とほぼ同時期に知らされた不貞相手の妊娠が夫の心を握りつぶさんとする。幸せを絵に描いたようなブルジョワジーの家庭にとって、不倫は世間に顔向け出来ないスキャンダルに他ならない。彼女のお腹に赤ん坊がいるとわかったところから、家族と雇われた下女との主従関係は逆転する。女は毒入りの水で決定的な事件を起こしたかと思えば、夫婦の罠を簡単に見破る。最高の舞台装置となる階段が家族の姿をせせら笑っている。
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