マインド亀

マーゴット・ウェディングのマインド亀のレビュー・感想・評価

マーゴット・ウェディング(2007年製作の映画)
4.0
家族だって他人と同じ…でも、失えない関係

●ノア・バームバック作品とは、常々ウマが合うなあと。
もう、すごい好きですこの作品。毎作毎作、会話だけでよく成り立たせるなあと思いますね。
この作品、ダメだという人も多いと思います。なぜなら登場人物の立ち位置がよくわからないから。ある登場人物が誰かの陰口を言ってるのに、次のシーンでは心配してたり、誰かを「魅力的だ」と言ってたのに、次のシーンではブチギレてたり…
要は人間って人間関係においては立ち位置は一つだけではないってことなんですね。ましてやそれが家族だったり親密な関係だったり、そんなに親密じゃなくても家族にならないといけなかったりすると、本音と建前が常に変わり続ける。
そんな複雑な感情を、全く説明的ではないセリフで、ポンポンとシーンをテンポよくすっ飛ばして繋げていく。拾いきれない感情を拾わないとイケないので、ヨクワカラナイ、という人も多い作品かもしれません。

●また、ほとんどの登場人物が、ほとんどの登場人物に対して全方向的に嫌悪感を抱いていることが多く、常に衝突を繰り返しているのが本当に観ていて辛い。その行動や言動の結果で、皆自分たちにブーメランが返ってくるわけですけども、ニコールキッドマン演じる、母親であるマーゴットでさえ、愛する息子に辛くあたってしまう…そんな彼女らは全く成長しなかったりするのですが、それでも家族であることからは逃れられないし、互いを失うことには恐怖すら感じていたりするんですね。
マーゴットは、有名な作家で、自分や家族のことをモデルにした小説を書いているのですが、これまた「自分が常に正しい」という常に上から目線の人なんです。そしてその言動は、「その人のために言ってやってる」という意識なので、その有害性は手がつけられません。その上プライドも高い。一度、人をレッテル貼りするとその先入観から抜け出すことは出来ない、これって最近のSNS上でよく見かける感じですよね。
だからこそ周囲は常にピリピリしているけれども、彼女だって絶望的に傷つくことはある。そんなときに寄り添ってくれる息子がいるのに、なんだか反目してしまう部分もある。そして自分には母性がないと思い込む。「母性」って言葉で女性を縛り付けるのは嫌なことですけどね。母性であろうと父性であろうと、大切なのは一人ひとりを自分とは違う人として対話することだと思うんですけどね。それが息子であろうと自分とは違う一人の個人。全部を失って初めてそれに気づく。それでラストのシーンの行動に繋がってるんだと私は思うんです。

●今回のジャック・ブラックは、ノア・バームバック作品でも相変わらずジャック・ブラックでしたね(笑)
あの傑作『スクール・オブ・ロック』の主人公そのまんまの役柄じゃないかと思いました。有害な男性性を持つ、人間関係の構築が苦手な自称アーティスト(画家)。そりゃ胡散臭いと思われても仕方ないとは思うんですが…(笑)

●ノア・バームバック作品は、けっこう家族関係の説明は少ないし、画面上に映る登場人物がどういう関係の人なのかこれまた説明がないから分かりづらい。また最初から容赦なく登場人物の固有名詞がバンバン出てくるし、画面には一切映らない人の固有名詞も出てくるので混乱してくるとは思うのですが、どの作品も観ているうちに何となくわかってきます。なので、セリフを聞き漏らさないよう、コンディションの良いときに観たほうが良い作品だと思います。それらを乗り越えて観たときに、「観て良かった」というご褒美がもらえる作品だと思います。是非観てください!
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