PeggyMYG

不安は魂を食いつくす/不安と魂のPeggyMYGのネタバレレビュー・内容・結末

4.2

このレビューはネタバレを含みます

主人公は子供3人自立したあとの独り者の老女…⁈…私じゃん!
というわけで、イヤでものめり込んで観ますよこれは。

おしゃべり好きで親切な初老の掃除婦エミと、差別に苦しむ外国人労働者の黒人青年アリ。孤独な者同士のハートウォーミングな物語…と思わせておいて急にハンドルがぎゅん! →恋→結婚。
エミおばあちゃん、ちゃんとオンナでした。
そりゃ、そうだ。見た目は老いても心は乙女、恋は遠い日の花火ではない。

彼女は誰とでも分け隔てなくフレンドリー。それは深い思慮に基づくというより、持ち前のオバ(あ)チャン力&ちょっと天然というキャラから。
だから、周囲から差別的に蔑まれたり仲間外れにされたりすることには耐えられず、アリ本人に不満をぶつけ、あえて人前で泣く(これ腹立つ)。
で、2人の旅行から帰って周囲の様子が元に戻りつつあるのを知ると、喜んでしまって安心し、アリへの扱いもぞんざいに。

単にエミが心清くおおらか、アリが穏やかで真面目なだけの人間に描かれていたら、嘘っぽくて物語にこれほどの深みは出ないだろうし、この魅力的な人間くささも出ないだろう。

2人は出逢いの場所で、お互いが孤独に苛まれ心を通わせた時を思い出す。2人には出会った頃の気持ちに戻る“素直さ“と”知恵“があった。

人種差別、男女格差、夫婦、職場、ご近所付き合い、大小あらゆる社会問題をコレでもかというくらい見せつけつつ、そこに起因させて単純にしてしまわないファスビンダー監督。(長女の夫がなんてイヤーな感じの男!と思ってあとで調べたら、ファスビンダー監督本人。本物のモラハラ夫にしか見えなかった。)

人と人との関わりで障壁を挙げればきりがないけど、本質はきっととてもシンプルなもの。
突き詰めれば、お互いへの思いやり、そのため自分を律する努力、かな…自分まだまだ修行が足らん自覚はあるけど、いい歳なので意識してはいる。

あからさまにイヤらしい差別、というか意地悪をされるシーンはコミカルで昭和のドラマを見ているよう。
確かに傑作だけど、そんな気分で見てもいいかも。
極上の一本でした。
PeggyMYG

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