ボブおじさん

シェーンのボブおじさんのレビュー・感想・評価

シェーン(1953年製作の映画)
4.3
子供の頃、何度もテレビで放送されていて、その度に胸躍らせて見た西部劇の傑作。当時放送前のテレビCMで盛んに言われていたキャッチコピーが〝あの0.3秒の早撃ちが帰ってくる〟ちなみに0.3はレイコンマ3と呼んでいた。当時子供だった私にとって〝西部劇のヒーロー〟=早撃ちガンマンであったのだ😊

だがこの映画は、単なる早撃ちガンマンのアクション映画では断じてない。変わりゆく時代に取り残され、滅びゆく者の美学をラストシーンにしたためた居場所を無くした孤独な男の散り際を見事に描いた作品なのだ!

南北戦争後の西部に開拓農民としてい暮らす、マリアン(ジーン・アーサー)とジョー(ヴァン・ヘフリン)の夫婦と幼い息子ジョーイ(ブランドン・デ・ワイルド)のスターレット一家。厳しい大自然と牧場主の横暴に苦しい生活を送る中、流れ者のガンマン、シェーン(アラン・ラッド)がたどりつく。ジョーイを筆頭に一家と仲良くなるが、悪徳牧場主らと農民たちの関係が悪化し、シェーンは一宿一飯の恩義から単身で悪党一味の待つ酒場へと向かう…。

よそから来た流れ者が世話になった一家のために悪党退治をして何処へかと去っていく。西部劇の原型とも言えるクラシカルな筋書きは、古今東西幾度となく焼き直されたプロットだ。イーストウッドの「ペイルライダー」、ブロンソンの「ウエスタン」、日本の「木枯し紋次郎」や高倉健の任侠映画も同じスタイルだ。今年観た「ロードハウス/孤独の街」では、流れ者がガンマンではなく元UFCファイターにアップグレードされていた😊

人妻との淡い恋心を感じさせる描写もあり、今見ても古さを感じさせない名作だ。マリアンが息子のジョーイに言う〝シェーンを好きになってはダメ、彼はいずれ出ていく人よ〟もちろんそれは自分自身の心情だ。

改めて見直すと西部劇ではあるが、ガンアクションは控えめで、ワイオミングのいかにもウエスタンな雰囲気の中、平凡な家庭に1人の男がやって来るホームドラマとしての要素が強い。

寡黙なガンマンが少年と心を通わせていく過程やマリアンとの淡い慕情、それとなく妻の心情を読み取る夫ジョーの複雑な感情の機微など、アクションよりも人間ドラマが奥深い。この辺りは元来ホームドラマを得意とするジョージ・スティーヴンス監督の手腕が、遺憾なく発揮されている。

少年が尊敬する父親ジョーと憧れの存在シェーンの対比も面白い。土地に根を張り畑を耕し家族を守るジョーに対して、おそらくは南軍兵上がりで定住の地も仕事も持たないさすらいのガンマンであるシェーンの姿は、それぞれがフロンティア・スピリットと時代遅れの男の象徴として描かれている。

無法者が闊歩したり、凄腕のガンマンが銃に物言わせる正義はもはや終焉を迎え、世の中が新たな時代へと移り変わる中で、自分のような男の時代が終わったことをシェーン自身が一番よくわかっている。

ジョーイに銃の扱いを教えたシェーンに対してマリアンが〝この子に銃は必要ないわ〟と伝える台詞は、時代の変わり目を端的に表している。

ガンアクションの少ない西部劇だが、最後の酒場での名悪役ジャック・バランス演じる〝早撃ちウィルソン〟との息詰まる決闘シーンは何度見ても手に汗握る。お互いのカットバックを何度も繰り返し緊張感が最高潮に達して時、勝負は一瞬で片がつく。

そして何と言っても映画史に残るあのラストシーン、少年の叫びも虚しく彼が戻って来ることはないだろう。ワイオミングの雄大な自然を背景に流れるヴィクター・ヤングによる主題曲は、西部劇から生まれた不滅の映画音楽の一つに挙げられる。

これといった代表作もなく平凡な二枚目ばかりやらされて〝大根役者〟の汚名を着せられていたアラン・ラッド、一世一代のはまり役。この後も大した役はやっていないが、この1作だけで彼は映画史に永遠に名を残すことになる。



〈余談ですが〉
◆この映画で永遠に名を残したのがアラン・ラッドだとすれば、この映画で永遠に語り継がれる台詞を残したのが少年役のブランドン・デ・ワイルドだ。彼はこの後いくつかの映画に出演し、わずか30歳の若さで不慮の事故によりこの世を去った。彼の名前は知らなくてもワイオミングにこだまするラストの台詞は映画ファンなら誰もが知ってる😊

◆わずかな出番で抜群の存在感を示した殺し屋ウィルソンを演じたジャック・バランスは、本作でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされている。凄味のある顔のこの元プロボクサーはこの映画で注目されて以降、引く手数多の売れっ子悪役として長きに渡り活躍する。

従来の西部劇のイメージを変えたと言われる本作は、改めて見るとガンアクションの場面は思いのほか短い。だがそれが逆に強烈なインパクトとなって脳裏に焼き付く。そうこの映画実に〝バランスがいい〟のである😅