ルノワール監督「獣人」(1938)を翻案しフィルム・ノワールとしてリメイク。原題「人間の欲望」。主演はラング監督の前年作「復讐は俺に任せろ」(1953)に引き続きグレン・フォードとグロリア・グレアム。
朝鮮戦争から帰還したジェフ(グレン・フォード)は三年ぶりに機関士に復職する。数日後、ジェフは旅行からの帰りの汽車の中で出会ったビッキー(グロリア・グレアム)という女性に一目惚れする。実は彼女はジェフの同僚カールの妻であり、夫婦で列車内殺人を犯した直後だった。。。
「獣人」と大まかな設定は同じだが主人公のキャラクターとラストがまるで違う。同作の主人公は心に暴力衝動の病を抱えていたが、本作では真っ当な人間の設定。ラング監督のインタビューによれば「当時ハリウッドのコードでは精神病者の女性殺人鬼を描くのはアウト」だったとのこと。そのため映画のテーマが根本から違うリメイクとなっている。
変更により「獣人」の文学性は失われたが、そのぶん物語はわかりやすくなり三角関係サスペンスを描くフィルム・ノワールの秀作となっていた。特にグロリア・グレアムがファムファタールぶりを発揮していて映画の強度を高めている。
「獣人」と本作を続けて観たことで、ルノワール監督とラング監督それぞれの個性を感じることができ興味深く楽しめた。両者それぞれの良さがあり甲乙はつけ難い。個人的には「獣人」の映像の強さがより印象に残った。