つかれぐま

イングロリアス・バスターズのつかれぐまのレビュー・感想・評価

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史実では自殺したヒトラーを、ユダヤ人の手でボコボコにする。タランティーノ得意の「シネマティック歴史改変」一作目だ。

クレジットこそブラッド・ピットが先だが、最も印象に残るのは圧倒的存在感を放つ悪役・ナチスのランダ大佐だ。英語、独語、仏語が飛び交う本作。その全てを操る彼が語学力で映画を支配するのだから納得がいく。

そんなランダがラストで信じ難い取引をブラピに持ち掛ける。戦局を冷静に読み切った、実に彼らしい狡猾なやり取りだが、単なる保身だけとは思わなかった。数時間だけでも世界の運命を自分の手で握ってみたい━そんな野望すらもうかがえる凄い演技。

ブラピ率いるバスターズのプレミア作戦と、映画館主女性の企てた復讐。この二つが同時に発動するラストは圧巻だった。両者は互いの作戦の存在すら知らないはずだが、ちゃっかり共闘している姿が、良い意味で緩いフィクションという感じで楽しかった。

ランダとドイツ女優(スパイ)の対峙は、本作のプロデューサーでもあるワインスタインによるセクハラ行為の暗喩かも(彼の悪事はこの時点では明るみに出ていない)。もしそうであれば、タランティーノは既に何となく察していたということか。