つかれぐま

イングロリアス・バスターズのつかれぐまのレビュー・感想・評価

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「ワンハリ」が供養した作品

独仏米英の各国俳優がちゃんと自分たちの言語を話す、こういう当たり前のことがキチンと出来ているためか、たとえ史実と違う結末であっても、映画的面白さは十分。但し若干のもやもやが・・。

第1章の緊迫感は凄い。
ほとんど俳優2人だけの会話劇で見せ切る。「英語で話さないか?」というメタなネタを振ったのかと思いきや、ちゃんとそれが後のサスペンスの伏線になってくる上手さ。クリストフ・ヴァルツの演技力(カンヌ&オスカーの2冠)に刮目し、以後このランダ大佐が物語を支配していくことになる。

一応主演のブラッドピットは、コメディリリーフ的「狂言回し」だが、楽しませてもらった。映画館での「<偽イタリア人の演技>がものすごく下手な演技」が上手かった(あー面倒くさい)。

さて、あれだけの胸のすく結末にも関わらず、もやもやが残った理由は二つ。一つは、あまりにランダ大佐のキャラが立ち過ぎて(メタ的に「マスターピースだ」と言ってしまうほど)ナチスの完全否定にまでは至っていないこと。ひとえにこれはクリストフ・ヴァルツの演技が上手過ぎたからなのだが、痛し痒しというところか。

もう一つの理由は、「映画」を物理的な凶器にしてしまったこと。映画を悪用したナチスが、映画に殺られる。という理屈はわかるし、単純にカタルシスある結末ではあった。ただ、おそらく世界一映画を愛しているはずのタランティーノが、大義のためとは言え、愛する映画を生贄にしてしまっていいの?というもやもや。銀幕上の彼女の高笑いも悪趣味スレスレだった。

こうしたモヤモヤを全部解消してくれたのが、昨年の「ワンスアポンアタイムインハリウッド」だ。本作と似た「史実修正」というプロットの「ワンハリ」だが、①ブラッドピットには最高の役、②悪役(マンソン一味)を徹底悪に描き、③映画と映画館!への至上の愛を語る、という丁重な供養ぶりで、本作の「上書き」に成功している。

10年の時を経て、こういうことをするタランティーノ。やっぱり凄い。