きゅうげん

飢餓海峡のきゅうげんのレビュー・感想・評価

飢餓海峡(1965年製作の映画)
4.0
仲代達矢が出演していたと思ってましたが、そちらはTVドラマ版ですね、記憶違いでした。

三國連太郎vs高倉健からして既にスゴイですが、加藤嘉や藤田進に沢村貞子まで、出てくる面々の役者としての信頼度が半端ないです。
それに内田吐夢監督による、迫真と緊張の会話劇や壮大で奥行きのあるロケーション(セットでの長回し最高)、印象的なソラリゼーションの演出など撮影の妙が光りますし、なにより冨田勲の呻くような呪うような、あるいは讃美歌のような音楽はいつまでも耳に残ります。
原作を書いた社会派推理作家・水上勉は、数年前の洞爺丸事故や岩内大火を吸収し機能的に利用してますが、ところで本作に登場する恐山のイタコは60年代にわかに全国的な知名度が上がったもので、そういう世間的ブームも柔軟に盛り込むところに、流行作家たる所以を感じます。

どんな些細なシーンからも、敗戦直後のどん底に生きる人々の貧しくアナーキーな生活や人生が、まざまざと眼前に屹立します。そんな中で「そうするしかなかった」という犬飼/樽見の言葉は虚偽か真実か、誰にもそれは分からず、ただただ悲痛な叫びとなる……。
あまりにも辛く悲しい現実をまえになす術はなく、自分が餓鬼のように歩きその存在に怯えた恐山の足元の海へ、彼はのまれるしかなかったのです。
……しかし三國連太郎が魅せる演じ分けは、素晴らしいの一言に尽きますね。鬱屈した労働者である犬飼から地元企業の社長の樽見まで、二元的なほど全く異なる振る舞いをしつつ、腹の底にある人間的な情熱は一貫している、本当に感歎する演技です。