ルサチマ

リミッツ・オブ・コントロールのルサチマのレビュー・感想・評価

4.9
誰がなんと言おうとこれこそジャームッシュのベスト。
なんてことはない。どうやって敵のアジトに潜入し、敵のボスを倒すのかという殺し屋映画に必要なサスペンスを全て放棄したというだけで、全ての謎は的確に画面に記録されている。カットが変われば瞬間移動したかのように敵アジトに潜入成功する殺し屋は「どうやって入った?」という問いかけに「想像力で」と答える。フレームの中には具体しかないと言う映画の中でフレーム外に起きたことは想像力に委ねるしかない。フレームの中に描き込まれる具体とはその想像力を掻き立てる表象であればそれでよく、つまりは殺し屋が日々の日課として行う合気道であり、カフェで飲む2杯のエスプレッソと、同志の仲間と思われる者との決まった台詞のやりとり、そいつから渡される謎の暗号の書かれた白い紙。それらが反復して観客の目と耳に刷り込まれていくことで、観客は全てを想像力で敵のアジトに潜入できるはずだ(『ベルリン・天使の詩』で見えないはずの天使に言葉をかけるピーター・フォークを思い出す)。
これこそを映画の神秘と言わずになんと言おうか。このしたたかな映画への愛に満ちた作品を偏愛せずにはいられない。
ルサチマ

ルサチマ