三樹夫

6IXTYNIN9 シックスティナインの三樹夫のレビュー・感想・評価

3.8
タイのタランティーノフォロワー作品。基本的には『パルプ・フィクション』だが、『レザボア・ドッグス』も『ジャッキー・ブラウン』も入っていると当時のタラちゃん監督作品全部乗せ。
アパートの6号室に住む女性が主人公。度々ドアの6のプレートがズレて反転し9になるため、9号室と間違えられて起こる大金をめぐるサスペンス。そのためタイトルは69となっている。会社を解雇され自殺も考えていた主人公はドア前で大金入りのダンボール箱を拾う。しかしそれは本来9号室に届けるためのものだった。マフィアが訪ねてきて、部屋の中に次々死体が増えていく。

こいつとこいつが接点あったのかみたいな登場人物が絡み合う構成の群像劇に、全体像を把握している者は誰もおらず色々勘違いしたまま話がドライブしていく。出てくる人間が全員変な奴、八百長だなんだとというので『パルプ・フィクション』をしたいのねというのが分かる。最後はモラル的な締めだなと思ったが、これも『パルプ・フィクション』のラストを意識しているのだろう。
この映画ではタランティーノのオフビートな雰囲気を取り込もうとしている。長い無駄話、時系列シャッフルの表層的なタランティーノアプローチは行わない。そこのところでちゃんとタランティーノを分析して作っているんだなと好感が持てる。長い無駄話、時系列シャッフル=タランティーノじゃないしね。
演出技法で遊んでいるような子供っぽさがあり、スプリットスクリーン解除後のサプライズはこいつと繋がってくるんかいと素直に驚く。

映画が始まってどんどんドライブしていき部屋が死体安置所になる中盤は面白いが、終盤に向けて勢いが下がるのが残念だ。下品おばさんなど面白いキャラ出しているのに、面白キャラをイマイチ映画のスパイスとして活かしきれていないのは演出の緩さにある。この映画は演出が緩めで、例えばファーストカットのおばちゃんのアップが思いっきり瞬きしており、このテイクにOK出すのは緩いだろう。その後の二人は瞬きしていなかったし。ファーストカットがこれはいかんでしょ。窓に反射する課長のカットも、窓に映っているというより空に浮かんでるみたいに見えた。

この映画が意識しているのは完全にタランティーノだが、コーエン兄弟を想起しないでもない。登場人物が絡み合う構成の群像劇、出てくる人間が全員変な奴というのはコーエン兄弟も得意とするところで、タラちゃんとコーエン兄弟は共通点もありつつもまた別種の監督だと思うが、一つ違いを挙げれば画作りが違い、コーエン兄弟はバキバキの画を作ってくる。両者ともキャリアを重ねるにつれ作風が変わっていくが、この映画の監督のように世界各国のボンクラを惹き付けているのは偉大だ。
三樹夫

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