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コントラクト・キラーのnetfilmsのレビュー・感想・評価

コントラクト・キラー(1990年製作の映画)
4.0
 由緒正しき英国建築、水道局の登録部では今日も事務員たちが仕事に追われていた。受話器を握りしめたまま、座りながら卒倒したおじさんの斜め後ろで、アンリ(ジャン・ピエール・レオ)は黙々とデスクワークをこなす。昼休み、食堂は満員で同僚たちが楽しそうに食事をしているが、アンリだけは一人黙々と飯を食べていた。仕事が終わると列車に乗り家に帰る。部屋に着いたらやかんを火にかけ、梯子を使って屋上に上がる。彼の趣味は観葉植物の水やりだった。妻も子もいない男一人の寂れた暮らしぶり。退屈な仕事に追われるばかりの男はある日、上司に呼ばれる。職場が民営に移行する矢先、真っ先に首を切られるのは、フランス人であるアンリだった。退職金もなく、人を小馬鹿にしたようなおんぼろの金時計だけで職場を追われた男は、ホームセンターで縄と釘を買う。アパルトマンの契約を打ち切り、男は柱に釘を打ち縄を括るが無情にも釘は彼の重みに耐えきれず、未遂に終わる。翌日アンリは、殺し屋に自分を殺してくれるよう依頼する。殺し屋のボスは心底驚いて何度も確認するが、男の決心はそう簡単に揺らがない。

 世の中の全てが嫌になり、強引に命を絶とうとした男はその翌日、皮肉にも酒場で不意に運命の女に出会ってしまう。マーガレット(マージ・クラーク)はショートカットの花売りで、疲れ切った表情が印象的だが、男はどういうわけか女の顔に天使を見る。その瞬間、死にたかったはずの男は死ぬのが嫌になるのだ。男の心象風景はまさに喜劇と悲劇が波打つ。カウリスマキの映画はこれまではフィンランドの俳優ばかりだったが、今回はトリュフォーの分身とまで言われたアントワーヌ・ドワネルを演じたジャン=ピエール・レオが無表情でこれ以上ないくらいの道化師ぶりを発揮する。男は女と結ばれた日から、殺し屋の恐怖から逃げ続ける羽目になる。だが殺す側の2人もボスの命を受けたものの、上り調子になるばかりの賞金首の姿に殺しを躊躇するばかりだ。それどころか殺し屋のベテランは末期がんで余命一ヶ月となり、自分の命と向き合わざるを得ない。宝石強盗の現場に落ち合った男は、代理で濡れ衣を着せられる始末。追う側と追われる側の悲劇は喜劇の様相を呈し、オフビートなコメディへと帰結する。人生は思い通りには行かないが、それでも何とかなるさというカウリスマキの人生観が心地良い。
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