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陽は昇るのHKのレビュー・感想・評価

陽は昇る(1939年製作の映画)
3.7
冒頭、そびえ立つ6階建てアパート。
たかだか6階建てでそびえ立つ?とお思いでしょうがこのシーンにはピッタリの表現。
その最上階の狭い廊下、人の言い争う声に次いで銃声、ドアが開き男がよろめき出てきて階段を転げ落ち、階段を杖をついて昇って来ていた盲人が異変に気付いて声を上げます。
そのドアから銃を片手にゆっくり出て来るジャン・ギャバン(当時35歳)。
ここまででもう掴みはOK。

色恋のもつれから人を殺してしまった主人公(ギャバン)が警官隊に包囲されながらの回想形式で物語は進行。
私が見た中で最も若いギャバンかなと思ったら『望郷』(1937)よりは後でした。
事件の原因となる若きヒロインを演じるのはジャクリーヌ・ローランという人。
『天井桟敷の人々』のアルレッティがヌードシーンまであってビックリ。
そして仕草がいちいち鼻につくキザで女たらしの犬の調教師(冒頭でギャバンに撃たれた男)を演じるのは、ジュールス・ベリーという人で憎まれ役がお見事。
若きベルナール・ブリエ(ギャバンの仕事仲間)の顔も見えます。

マルセル・カルネの作品を観るのは学生時代に観た『天井桟敷~』以来(約40年ぶり)。
脚本も『天井~』と同じくジャック・プレヴェール(フランスの詩人でシャンソン曲『枯葉』の歌詞もこの人)。
1930年代のフランス映画の流れである“詩的リアリズム”の代表作品の1本とか。
確かに細部がとてもリアルなのに詩的な印象。
「愉快な目と哀しい目・・・」

窓も壁もドアも穴だらけになる警官隊によるアパートの部屋の銃撃が妙に生々しい。
その昔フランス映画で警官がマシンガンを持っているのを見て驚きましたが、本作はマシンガンではないもののライフルや拳銃による一斉射撃はやはり容赦がありません。
主人公は自分自身の内と外から同時にジワジワと追い込まれていきます。

男と女が出会うとすぐに付き合い始め、しかも三角ならぬ四角関係に発展してしまう流れがいかにもおフランス。
現実と回想をうまく切り分ける劇伴はモーリス・ジョベール(『舞踏会の手帖』『霧の波止場』)。
後にアメリカでヘンリー・フォンダ主演でリメイクされたそうです。
filmaさん、ジャケ写ありがとうございました。
(U-NEXT配信終了滑り込み)
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