都部

ドラえもん のび太の大魔境の都部のレビュー・感想・評価

3.4
ドラえもん映画の基本概念として存在する『映画版ジャイアン』──邪智暴虐な男:剛田武がスクリーンでは人情に厚い正義漢と化して作品全体の自分の印象を上塗りせんとする姑息な風潮のことである──の走りとも言える映画が本作であり、今回は事実上 主人公の立場にいると言える。

今回も留守番の出木杉によるヘビー・スモーカーズ・フォレストの詳細の説明という物語にグッと引き寄せられる導入を経て、子供心を叶える為に冒険の旅に出るという筋書きは好ましく、しかしひみつ道具の介入により緊張感に欠ける展開が連続する。

これは便利なひみつ道具を使えない状況に持っていく為の理由付けとして丁寧であるが、その分 物語の進行を停滞させているので良し悪しを感じる。こうした試行錯誤を経て、『そもそもドラえもんぶっ壊せばよくね?』という最適解がこの後の映画において導かれるというのは、ドラ映画の歴史の変遷を感じさせるから愉快だ。

ジャイアンの主導によるひみつ道具に頼らない冒険を始めたことで数々の困難に襲われて、各々に募る不平不満の責任をジャイアンが気負うことになる流れはキャラクターを考えると心情に寄り添った作劇であり、終盤 その責を取る為に炎が上がる森の中を闊歩する姿は100点満点の映画版ジャイアンであった。直後の言い合いにセリフがないのも良い。

バウワンコ王国の最終目的は人間世界への侵食だが、これは作中の情報を判断材料によくよく考えると無謀でしかなく、暗に戦争の無為さを語っているのだと解釈できる。敵対する人間の世界をまるで知らないから兵器は粗末で、抵抗の見積もりも甘く、箱庭でぬくぬくと暮らしてきた所作が戦争準備のパートで数々見て取れるのは示唆的で面白い。

徐々に盛り上がりを増していく物語の構成は及第点を満たした出来で、予言の布石の拾い方もある意味 意外で、最後まで驚きと興奮を孕んだ要素を持った作品である。
都部

都部