ほーりー

にっぽん泥棒物語のほーりーのレビュー・感想・評価

にっぽん泥棒物語(1965年製作の映画)
3.8
「おらたちを取っ捕まえる警察のお偉方がですねぇ、おらたちより嘘つきだというのはどういう訳でしょう。いや、嘘つきは泥棒の始まりって言うんべか?」

ラストの証言台に立つ三國のすっとぼけた台詞回しに巧いなあと唸ってしまった。

日本映画好きな知り合いと三國連太郎の話をしていた時に「三國連太郎の本当の代表作は『飢餓海峡』じゃなくて『にっぽん泥棒物語』だよね」って話になったことがあった。

『飢餓海峡』は左幸子の映画だそうな。なるほどと思った。

昼はモグリの歯医者、夜は前科四犯の土蔵破りの三國連太郎が鮮やかに盗みを繰り返しながらも、母の死や結婚を経てやがて本当の幸せに気づいていく異色喜劇。

奇しくも本作と『飢餓海峡』は同じ年に公開され、本作は松川事件が、片や『飢餓海峡』は洞爺丸転覆という戦後を象徴する大事件が背景に描かれている。

また両方とも過去に罪を犯した男がその素性を隠して、戦後は地元の名士として活躍していくという点でもよく似ている。

しかしその結末は全く異なり、この二作はまさに表裏一体という感じがする。

昭和の怪優と呼ばれた三國を逮捕する刑事役を同じく怪優と呼ばれた伊藤雄之助が演じており、これが期待を裏切らないくらい胡散臭く演じていて素晴らしい!

二人が同じフレーム内に収まっているシーンは、ここまで来るともう脂ぎったなんてレベルじゃなくてもはや重油レベルの泥々さである。

中盤からは三國が偶然にも松川事件(劇中では杉山事件)の犯行現場を目撃したことにより、冤罪で逮捕された被告たちの為に証言するべきか苦悩する場面が中心となってくる。

この松川事件の描写は名前こそ架空だが、それ以外はほぼ史実に忠実だそうな。

自分が告白することで妻子にも迷惑をかけてしまうのではと悩む三國の姿も心に残るけど、裁判での東北弁丸出しの証言シーンや昔のテクニック駆使して旅館から逃げる場面など三國のコミカルな演技がやっぱり面白い。

これがのちに釣りバカのスーさん役に繋がっていくのかなと感じた。あとふと見せる表情が佐藤浩市そっくりなので何度もハッとさせられた。

その他役者陣としては、妻役の佐久間良子(三國が口移しで水を飲ませるシーンが印象的)、そして三國の相棒のこそ泥を演ずる江原真二郎の脱糞姿(二枚目なのに笑)が印象的。

■映画 DATA==========================
監督:山本薩夫
脚本:高岩肇/武田敦
音楽:池野成
撮影:仲沢半次郎
公開:1965年5月1日(日)
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