三鷹

フェイトレス 〜運命ではなく〜の三鷹のネタバレレビュー・内容・結末

3.7

このレビューはネタバレを含みます

久し振りにキツいものを見た。2002年にノーベル文学賞を受賞したユダヤ人、Kイムレの自伝。それだけにただただリアルだ。今までアウシュビッツものを何作が見ているが、これは結構しんどいレベルは高め。

ハンガリーで両親と暮らしていたジュルカはある日仕事場へ行くバスから降ろされ、警官に連行されてしまう。
ブダペストでのユダヤ人狩りに遭ったジュルカは同じユダヤ人の友達や大人たちと収容所に送られる。
そこでの非人道的な扱いを耐え奇跡的に終戦を生きて迎え、連合軍により解放されて帰ってくる。
兎に角、収容所での描写が目を背けたくなるような毎日だ。さほど亡くなったユダヤ人の死体が出てくるわけでもないし殺されるところが出てくるわけでもない。
ただ、色を落としたその映像が淡々と彼らの運命を描き続けていく。ジュシカから見た話なので(「自伝」だから当たり前なのだ)、時々どうしてそうなったのか、が説明しきれていない個所もあるが、それがまた『作られた物語』とは違うリアルさを感じさせる。

膝の状態がひどく悪化し、立つことも叶わなくなったジュシカの行く先は「死人」と一緒に捨てられることであったが抗うこともできず命の火は消える寸前であった。人間の尊厳を全てないがしろにしたナチの非道さに吐き気すら覚えたシーンだ。
そしてそんな経験をしたジュシカが最後に言う。「収容所の中にいた時でさえも幸せは感じた」と。
私は今でもこの言葉の意味が分からないのだ。
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