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乳母車のakrutmのレビュー・感想・評価

乳母車(1956年製作の映画)
3.8
父の不倫相手に会いに言ったゆみ子が、そこで出会った不倫相手の弟・宗雄とともに、非摘出子の赤ちゃんの幸せのために奮闘する姿を描いた、田坂具隆監督の青春ドラマ映画。石坂洋次郎の同名小説が原作であり、この映画以降、石坂洋次郎の文芸作品が裕次郎主演で多く製作されるようになる。

宗雄を演じる石原裕次郎は、デビュー作『太陽の季節』、初主演作『狂った果実』に続く、三本目の映画出演であり、前作のキャラとは正反対の好青年を好演している。田坂監督は、裕次郎本人の地のままの魅力を活かすために、台本を憶えずに自然なままに演技しなさいとアドバイスをしたそうであり、それが石原裕次郎のそれ以降の演技スタイルを決定づけることになる。確かに、何本も裕次郎映画を見ていると、彼の魅力(それが稀有なスター性につながる)は本人の<素>の素晴らしさにあることは容易に見て取れる。

でも、本映画の主演は裕次郎ではなく、ゆみ子を演じた芦川いづみである。まだデビューして間もない頃であり、本映画が初主演作だと思う。初々しさが残っていながらもしっかりとした演技が魅力的であるし、彼女の清楚さも滲み出ている。新珠三千代が不倫相手の若い女性役で出演していて、裕次郎との共演は珍しい。なぜ日活の映画に出ているのかと不思議に思ったが、そういえば『風船』や『洲崎パラダイス赤信号』でも芦川いづみと共演していたっけ。最初の数年間は日活で、その後に東宝に移籍している。なかなか凄い転身をとげるゆみ子の母親を演じた山根寿子、どことなく優柔不断な父親を演じた宇野重吉も良い。

当時の街並みや風俗が垣間見えるのも見どころかもしれない。デパートの屋上に遊園地があるなんて、現在では考えられないだろう。最後のほうのシーンに出てくる赤ちゃんコンクールは、森永製菓が主催していたものである。
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