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若妻・恐怖の体験学習のpsychedeliaのレビュー・感想・評価

若妻・恐怖の体験学習(1972年製作の映画)
5.0
68年にロマン・ポランスキーの傑作『ローズマリーの赤ちゃん』が公開されてからというもの,73年の『エクソシスト』が決定打となって新世代のオカルト映画がホラー映画界を席巻した。イタリアでもマリオ・バーヴァの生み出した殺人映画,ジャーロが大流行し,その道のエース,ダリオ・アルジェントはブームも手伝ってハリウッドにまで乗り込んだ。さらに70年代最後の年には新感覚のSFホラー映画『エイリアン』までが公開。ホラー映画界には完全な世代交代が行われた。
そんな時期にコツコツと古典派ホラーを撮っていたのが英ハマー・プロダクションである。ハマーはエログロの闊歩するホラーの大通りに背を向け,こんな頃にまでドラキュラやフランケンシュタインを作っていた。これじゃあ流石に客が呼べないと,『ドラキュラ'72』なるドラキュラを現代に蘇らせただけの映画を撮ったりしたが,やることはいつもと同じなので新味はゼロ,墓穴を掘ることになる。
本作はそれと同年に撮られたサスペンス映画で,シリーズ物でないためかマンネリを感じることがなく,なかなかクールなショッカーに仕上がっている。黒革の手袋をした正体不明の殺人鬼が現れたり,ジャーロの手法を上手く取り入れ,しかも古典派サスペンスとしての風格も失っていない,よく出来た快作である。監督はハマーの大御所脚本家のジミー・サングスター。アルジェントのように奇を衒わずとも観客を恐怖の坩堝に誘い入れることができるという技術を思う存分魅せつけている。こういう作品を観ると,古典というのが決して古びていないことを実感できる。
つまり,スポーツでいえば,2003年の日本シリーズでいうところの第七戦,ホークスの新人和田毅と阪神広澤との対決である。広澤は現役最後の打席で,好投を続ける新人に一矢報いてみせたのだ。主力選手の平均年齢の高いタイガースが,新人から中堅を揃えたホークスに粘り,第七戦まで持ち込んだ。しかし,結局は敗れていくその最後,広澤が新人の球をスタンドに放り込んだのだ。
ハマーのこの後の終焉と並び比べると,そんなドラマが思い浮かぶ。
だが,実際のハマーは最後の作品『悪魔の性 キャサリン』において下品なエログロに手を出して撃沈。晩節を汚して映画界を去ったのである(実は近年復活した)
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