Arata

自由を我等にのArataのレビュー・感想・評価

自由を我等に(1931年製作の映画)
4.5
過去にサントリーが新聞広告として掲載していた、お酒にまつわる短編を集めた書籍、「酒の本棚」に収録されている山口瞳先生の「流行作家」の中に、この映画のラストシーンへの言及があり鑑賞。

世界最古の映画祭「ヴェネツィア国際映画祭」の第1回の金獅子賞(最高賞)受賞作品。

また、チャップリン映画の「モダンタイムス」の元ネタとしても知られる。



【あらすじ】
割愛


【感想など】
・序盤の刑務所と、蓄音機工場の酷似。
人が人を監視し、流れ作業をこなす。
人間は番号で割り振られている。
など、産業が発展し、工業化が進む事で懸念される社会への皮肉が込められている様に思える。


・労働は義務、なぜなら自由だと言う矛盾。
「自由とは一体なんなのか」と、どこぞのロック歌手の様なセリフが脳内を巡る。


・エミールが想いを寄せる女性の胸に付けた社員番号。
社員番号のワッペンがレコードの形で、その中央部分に表記されている番号が45。
45は、EP盤の回転数でもあるが、この時代にはまだ存在しないはずなので、45回転が生まれたあとの時代の人間からすると、予言めいた描写であると思う人も多いのでは無いかと思う。
彼女が何故45番なのか、ご存知の方がいらっしゃったらご教示願いたい。


・手の怪我のケア、そしてウインク。
刑務所からの脱走の際、怪我をしてしまうエミールをルイが手当をする。
後に再会し、冷たくあしらいエミールを追い払おうとするも、ここでもエミールが負傷し、それをルイが手当をする。
ここでルイがウインクをするが、これは脱獄計画の際の合図でもある。

刑務所内ではルイが上手(かみて)で、脱獄と言う未来に向けて、怪我をしたエミールを手当し、ストーリーを展開させる役としての意味。
蓄音機工場の社長室では、ルイが下手(しもて)で、エミールが新たな友情を結ぶきっかけを与える役で、ルイが過去を取り戻すと言う意味合いかなと感じた。

この社長室でのシーンで、ようやくルイはエミールを受け入れる。
とても素敵な友情を感じ取る事が出来る。


・落成式でのお札の紙吹雪。
お札欲しさに、大勢の人々が右往左往する滑稽な様子がとても愉快。
ラストシーンの田舎道で、彼らにコインが降ってくるのも興味深い。


・ラストシーン。
このシーン見たさで鑑賞していたので、とても感慨深く感じた。
自由を求めて不自由になっていく世の中とは対照的に、2人は本当の自由を手に入れて、そして友情を深めていく姿が印象的だった。



・主題歌もとても良い。
反対の意見を、肯定的に述べて否定すると言う、逆説的な歌詞が秀逸。
そして、「これが本当の話なら〜」と言うオチまでついていて大傑作。



【飲み物】
蓄音機工場の社長として成功をおさめ、自身の豪邸に大層立派な全身像の肖像画にむかって瓶を投げ付け、自らの手で絵を破損させる。
その際に投げたお酒が、ボルスのジン。

18世紀のイギリスの画家ウィリアム・ホガース氏作の風刺画「ビール通りとジン横丁」にもある様に、ジンは破滅的な「ディストピア」の象徴でもある。

これは、粗悪で安価なジンで身を持ち崩す人々が大量発生した為であり、現在日本で手に入るジンには、その時代の様な粗悪で破滅的なお酒はまず無い。

このシーンの前後から、彼の「会社経営者」としての人生は転落を迎える訳だが、ジンのボトルがサブリミナル的な効果を与えているとも思える。

あれが、もし高級ワインだったら「財を投げ捨てる」となるかも知れないし、シャンパンなどのスパークリングワインなら「湧き上がる感情」とも捉えられるかも知れない。


ラストシーンから考えると、財力の象徴の様な肖像画を自ら破壊して、ディストピアの象徴のジンを投げ捨てる。
財や社会的地位を捨て、多くの人がユートピアと考えている彼らにとってのディストピアからの解放だったのかなと考える。

ボルスのジンは、オランダのボルス社で作られるジンで、正確には「GENEVER/ジュネヴァ」と表記する。

一時期生産されていない時期もあったが、日本では2013年より販売されており、比較的簡単に手に入る。バーなどでも、お試しいただける機会が、少なくないと思われる。

ジュニパーベリーやシトラスなどがしっかりと効いたスッキリと洗練された味が特徴のドライジンと比較すると、穀物由来の香ばしさがしっかりと感じられ、どこかウイスキーの様だと形容される事も多く、素朴な味わいが特徴。
様々な飲み方でお楽しみいただけると思うので、是非試して欲しい。



【総括】
自由を求めて不自由になっていく人間と社会、それとは反対の生き方を選択する主人公。
時代に翻弄されるのでは無く、普遍的で本質的で自由な幸せを、自らが気付き選択していける様に生きていきたい。
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