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ドリラー・キラーの消費者のレビュー・感想・評価

ドリラー・キラー(1979年製作の映画)
3.8
・ジャンル
サイコホラー/スラッシャー/ドラマ

・あらすじ
確かな才能を持ちながらも芽が出ずに燻っている画家のリノ
当然、収入は乏しく共に暮らす恋人で人妻のキャロルとグルーピーのパメラとの3人掛かりでも家賃滞納も日常茶飯事だった
2人以外に信頼出来る者もろくにおらず街に溢れる浮浪者達と会話しインスピレーションを求めるだけの日々
それでも腐らず完成間近の新作を高値で売り欲しい物を全て手にするという野望を彼は持ち続けていた
そんな苦しい日常の最中、彼らが暮らすアパートの一室を人気パンクバンドThe Roostersの面々がリハーサル場所として使い始める
昼夜問わず鳴り響く騒音に集中力を削がれていくリノ
やがてその苛立ちに耐えかねた彼は狂気に駆られ電動ドリルで街行く人々を殺していく様になり…

・感想
同居する人妻と女友達以外に味方もなく放蕩生活を送る売れない画家が追い詰められた末に殺人鬼と化す様を描いたスラッシャー作品

浮浪者達の溢れる街並み
父性への飢えから来るバイセクシャルを示唆する様な導入
恋人キャロルと共依存の関係にありながらも焦りと苛立ちをぶつけてしまう様
マチズモを象徴する様な雄牛という絵のモチーフが示す時代性
同じ様に放蕩生活を送りながらも売れているバンドとの対比
全てを賭けて手掛けた作品への否定、ゲイの画商に枕営業をしたらどうかという同居人パメラの言葉…
標的の多くが親しんでいたはずの浮浪者達である事も厭世観や劣等感が歪んだ末に見下せる相手、という事で的確
スラッシャー映画でありながら社会や人生の残酷さを描くドラマ性が豊かで生々しく行き場の無い夢追い人が辿る変貌というのが物悲しく重たい作品だった
そんな主人公リノが最後に望んだ物やその後を敢えて不明瞭に終わらせる事で生まれた余韻も含めて鬱映画としての良さもあり面白い
実際スラッシャー映画ではあるが殺人シーンが占める割合はそう多くなく、にも関わらず満足感の得られる物語が構築出来ているというのが素晴らしかった

似た世界観の作品として思い浮かぶのが
ドロップアウトした若者達が現実的な不安を抱えながらも押し殺し刹那的に生きる姿は「神様なんかくそくらえ」
違いは帰る所がある人妻キャロルの存在でこれが虚しさや孤独を引き立てていて対比として巧い
表現者が狂気に呑まれる様は「マジック」の様でもあるし世捨て人という意味では「タクシードライバー」にも近しい物が感じられた
共通するのは“無敵の人”やそれに準ずる存在を描いている事
他の方のレビューをチラ見して社会派要素があるとは知っていたけどまさかスラッシャー映画でこんな物が見られるとは…

純然たるスラッシャーらしいゴア描写を期待する人には物足りないかもしれない
確かにグロさがあまり無いのも事実
しかし1つの心象風景を描いた作品としては閉塞感やどん詰まりの状況、孤独、今を生きる上での不安などやり場のない感情を連続殺人で発露させた興味深い一作だと個人的には感じた
タイトルはややB級臭いけど内容は濃いので食わず嫌いせず観て欲しい
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